第五章 其の六
話し合いの後すぐに出立した俺たちは、今は森の中を十名にも満たない人数で馬を走らせていた。
俺の配下からはふたり、残りは甚と甚の配下ふたりだ。できる限り隠密に動きたいことが一番の理由だが、未だうちの者たちには鈴音の出自などについて話していないため、そういったことに理解がある口の堅いふたりを連れてきた。
そして、甚とは先ほど合流したばかりで、改めて情報交換とすべきことを確認する。
「まず、鈴音と合流を図りたい。それから計画を聞いて、どうするかを考える。第一の目的はそれだ。」
ただひたすらに馬を走らせながら、前だけを見て話を進める。
「さすがに敵の本拠地で、この人数での戦闘は避けたい。だから見つからないように頼む。」
「しかし旦那。鈴音殿はおそらく柊の大名の元まで行くつもりだと思うが...」
甚が口を閉ざしたとともに、全員が立ち止まる。
すぐに馬を降りて、木々の間に身を隠すようにして静かに移動するように動きを変えた。
「旦那様、我々が先に参りましょう。」
申し出てくれた後ろのふたりを振り返り頷く。ふたりはすぐに頷き返して、馬を他ふたりに預けると音もなく奥へと消えた。
「ここは人の往来なんて滅多にないだろうに、山賊かなにかか?」
甚もおそらく気づいたのであろうこの血の匂い。目的地にたどり着く前に面倒ごとはこうむりたいところだが、なにかあったのであれば見過ごすわけにもいかない。
どうすべきかを悩んでいると、偵察に出ていたふたりが戻ってくる。
「ここから進んだ先に、約十名ほどが斬られておりました。すでに息絶えており、周囲に人の気配もありません。」
「そうか。」
「旦那、一度場を見てもいいか?」
甚からの確認に頷いて、全員で移動を再開する。
周りを警戒しながら進んでいけば、少し進んだ先に報告通りの光景が広がっていた。辺り一面の血溜まりと強烈な匂いに、思わず顔を顰める。
久方ぶりの光景に気後れしている間に、甚たちがなにやら地に伏せる者たちをひとりひとり細かく確認をしていた。それが気になって近づいて問いかける。
「いったいなにをしているんだ?」
「それが...ああ、やっぱりな。」
何人目かで手を止めた甚はしゃがみこんだまま俺を見上げた。そして、指で示された首の後ろを見やる。
「こいつらは柊の斥候だ。一昨日、動いたという情報は掴んでいたんだが、まさかこんなところで相まみえるとはな。」
言いながらも、すぐに興味を失ったように立ち上がって馬へと跨る。俺たちも特段気にすることはなく、同じようにしてまた駆け出した。
「おそらくあの者たちは斬られてからまだ一日経つか経たないかくらいだろう。急げば鈴音殿に追いつくかもしれん。」
「あれが、鈴音がやったことだとでも言うのか?」
「断定はできん。だが、今柊の斥候を排除する理由がある...できるのは、鈴音殿くらいだろう。」
「あれは的確に急所を狙い、一撃で仕留められたように見えたが、あのような芸当が鈴音にできると思うのか?」
先ほどの光景を思い返した俺は、腑に落ちずに横目で甚を見る。甚は、ただ真っすぐに前を睨みつけながら問いを返した。
「旦那はどっちだったらいいと思う?」
鈴音か。鈴音以外のだれかか。
刀を扱えることを知ってはいても、実際に手にしているところは見たことがない。甚から短刀を渡されたときに持っていたくらいだ。
本心で言えば、もちろん鈴音以外の何者かであってほしい。その手に刀など持つことなく、目にすることなく、過ごせる日々であればいいとずっと願っている。
だが、どれだけこの手を伸ばしてそれを果たそうとしても、するりするりとすり抜けてしまう。後悔したところでもう遅いのだろうということは、漠然と感じていた。けれども、だからこそ今はひたすらに進まなければいけないのだと思うのだ。
なにもかもが、手遅れとなってしまう前に......
適度に休む時間は与えていたが、この二日のほとんどを馬で駆け抜けて、柊へと着くころには皆の顔にさすがに疲れが少し見えていた。
結局、道中で鈴音を見つけることは叶わなかった。
柊の地と隣接する森で、これからのことを話し合う。
「鈴音はすでに柊にいると思うか?」
「後ろのふたりに町中を探らせたところ、それらしき人物を見かけた人がいるらしいから、いる前提で動いたほうがいいだろうな。」
甚が合図を送れば、後ろに控えていたふたりが柊の地図なのだろうそれを広げてくれた。そして、甚はそこを指で指し示す。
「それらしき人を見たのはここだ。」
指し示された先は、ここからずっと奥。柊の中心部とも呼べる場所...つまりは柊の大名が居る屋敷の近くだ。もし本当にその人が鈴音であった場合は、確実に柊の大名へと近づくつもりなのだろう。
そのことが分かってしまえば、あまり猶予はないことに焦りを覚える。
「夜のうちに中へ入ろう。もし、向こうの手の者に鈴音が見つかってしまえば、すぐに屋敷へと連れていかれてしまうだろう。そうなれば、接触が難しくなる。」
その場にいた者たちをぐるりと見渡せば、ありがたいことに皆が俺の言葉に頷いてくれた。




