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月鬼桜 ~薄明の願い~  作者: 釉亜


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第五章 其の二

「...以上だ。そちらの大名が言ったことは嘘であり、俺を侮辱するものである。柊の地にこちらの兵が滞在しているのもそういった事情からだったが、そういった発言をするのであれば、お前たちを守ることなど放棄したいものだな。」

「よくもすらすらとそのような嘘をつけたものですな!」


ああ、めんどくさい。

こちらにびしっと指を向ける大名に、呆れた表情をしてしまったのは仕方がないことだろうと思う。始終興奮した様子で捲し立てるが、この場でそれに同調しようとする者は反帝派の数名のみで、他は困惑していることが伝わってくる。

「ならば、こちらもひとつ問いたい。一年ほど前からやたらと杉とのやり取りが増え、そして武具を大量に保有するようになった訳は?」

「ふんっ。私がだれと親しくしようが将軍様には関係ありません。それに、そちらが武力行使をしたのですから、それに対抗しようとして致し方なく秘密裏に集めたのです。」

「そうか。なら杉との親交は認めるのだな?ああ、たしか武具の購入元も杉だったな。」

「ええ、もちろん。私の話を聞いた杉の大名が憐れに思い、協力してくれたのです!」

柊の大名が誇らしげに胸を張り、声高らかに宣言するも、少し離れた場所に座っていた杉の大名は顔を青褪めさせていた。

鈴音の言うように、考えなしの阿呆なのだろうなと思いながら、俺は矛先を帝へと変えた。

「だそうですよ。禁じられているはずの杉での武器生産、柊の武力保有。これらについてはどうお考えですか?」

後ろに控えていた者に合図をし、事の仔細がまとめられた冊子を帝へとお渡しする。

杉の大名が反帝派というのは帝とその周辺数名はすでに知っており、武器の生産を誇っていた杉にそれらを禁止させることで、その勢力を削ぐ...という計画が実は少し前に行われていたのだ。

これは、もしそれ以降も武器を生産し続けているのであれば、帝への反逆の意志ありと制圧する口実をつくるためでもあった。

少し前に話をした帝、もとい暁月のとても忌々しそうな表情が思い出される。


酒に酔い、顔を赤らめながら暁月の口からとめどなく不満が溢される。

『杉の大名からちくちくと嫌がらせをされて叶わない。こちらとしては今すぐにでも罰してやっても構わないのだけれど』

なんて物騒な物言いに、俺も宗馬も顔を見合わせて肩を竦めた。その場にいた宗馬から聞いた話によると、なかには暗殺者を差し向けられたりもしたのだとか。

確たる証拠はさすがに残されていなかったために有耶無耶(うやむや)にしていたと言うが、暁月からすると証拠など知らん、目障りだから処罰する...ということもできないことはないのだ。だが、そのようにしてしまえばついてくる者たちに不信を与えかねないからと我慢しているらしい。

その夜は、大変だなと宗馬とふたりでずっと暁月の愚痴に付き合った。


「...これらの沙汰については後日追って伝える。真偽のほども確かめなければならない。杉の大名についてはこれらについて嘘偽りなくつまびらかにするように。柊は先ほどの証言についてすべて証拠を提示するように。以上。」

帝の言葉を伝える侍従の声に意識は現在へと戻る。

顔面を蒼白にした杉。未だ状況を理解できていない勝ち誇った表情を浮かべる柊。そうして面倒ごとに巻き込まれた苛立ちを隠せない俺を置いて、その場はお開きとなった。



そして、俺は屋敷に帰るなりその時の出来事を、じいやと鈴音にすべて話した。

「結果として旦那様が疑われることなく、柊と杉の大名に対してのみお咎めがある...ということでしょうか?」

じいやは手を挙げて確認し、鈴音はなにやら考え込んでいるようだった。その様子が気になりつつも、まずはじいやに対して頷く。

「そうだな。もともと、帝へは柊の地に兵を送る際に話をしていたから、おそらく信じてもらえていると思う。」

「帝が信用してくださっていても、他の方たちはどうでしょうか?」

ぱっと顔を上げて、鈴音は他の問題について触れた。

「近頃、ようやく他の地と交流ができるようになり、資材確保の安定が見られるようになったばかりです。今回のことで、巻き込まれたくない、あるいは不信感を抱いた者たちが交流を取りやめる可能性がございます。」

それは俺も懸念していたことで、まさに腹立たしくてしようがなかった理由のひとつでもある。あの場にいた数人は、つい先日に手を取り合って和やかに談笑を終えたばかりの者たちだった。その者たちが浮かべていた表情は、まさに好意的ではなくなった猜疑心(さいぎしん)に満ちた瞳だったのだ。

そのときのことを思い出して、思わずため息が出る。

「ないとは言い切れない。だが、こちらとしては要望があれば嘘偽りなく話をして、真摯に対応することくらいしかできない。あんな荒唐無稽(こうとうむけい)な話を信じないとは思うが、まだ交流も浅かっただけに不安を与えてしまっただろうな...」

「その部分を狙われたのではないでしょうか?」

「じいやの言うことも一理ある。だとすれば向こうをただの馬鹿者だと侮って相手するわけにはいかなくなったな。」

「柊の大名もずいぶんと諦めの悪いお方ですな。」

やれやれとじいやは首を振り、俺もそれには激しく同意した。

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