第19話 母が残した、たった一つの約束
夜八時。
才園寺家のリビングには、柔らかな照明が灯っていた。
窓の外では、細かな雨が静かに降り続いている。時折、雨粒が窓ガラスを伝い、静かな部屋に小さな音を響かせていた。
黒瀬春馬の身体に入った美雪は、ソファに腰掛け、姉の桜が来るのを待っていた。
父親が持っていた古い写真。
そして、母親について桜が知っていること。
これまで深く考えないようにしてきた母親の過去が、今日はどうしても気になって仕方がなかった。
「美雪、お待たせ」
声のした方へ顔を向けると、桜が二つのマグカップを持って立っていた。
「ココアでいい?」
「ええ。ありがとう」
桜は美雪の隣に腰を下ろし、片方のマグカップを差し出した。
温かな湯気が、二人の間にゆっくりと立ち上る。
しばらくの間、二人は何も話さなかった。
やがて、桜がカップに視線を落としたまま、静かに口を開いた。
「……ねえ、美雪。お母さんのこと、どこまで覚えてる?」
美雪は両手でマグカップを包み込んだ。
「正直、あまり覚えていないわ。小さい頃の記憶しかないから」
「そっか……」
桜は少し寂しそうに笑った。
「私も、はっきり覚えていることは少ないんだ。でも、一つだけ、ずっと忘れられないことがあるの」
「何?」
桜は窓の外へと目を向けた。
「お母さんが入院していた頃のこと。私たちがまだ小さかった頃、病院に会いに行ったことがあったでしょう?」
美雪は、遠い記憶をたどるように目を伏せた。
白い天井。
窓辺に飾られた花。
そして、優しく自分たちを抱きしめてくれた女性の温もり。
「……少しだけ、覚えているわ」
「そのときね、お母さんが私に言ったの」
桜は一度言葉を切り、懐かしむように目を細めた。
「『桜、美雪のことをお願いね。でも、あなたが美雪の人生を代わりに生きる必要はないのよ』って」
美雪は、思わず顔を上げた。
「……お母さんが、そんなことを?」
「うん」
桜は小さくうなずいた。
「それから、『二人とも、自分の好きな道を選んでいい。たとえ私がそばにいなくても、自分の気持ちを大切にしてね』って」
その言葉を聞いた瞬間、美雪の胸の奥が静かに揺れた。
自分の好きな道を選ぶ。
自分の気持ちを大切にする。
それは、昨日、自分が父親に伝えたかったことと同じだった。
「当時はね、正直、よく意味が分からなかったんだ」
桜は、少し困ったように笑った。
「ただ、お母さんが優しく笑いながら話してくれたことだけは覚えてる。だから、ずっと忘れられなかったんだと思う」
「……そうだったのね」
美雪は、マグカップの中に視線を落とした。
母親は、自分たちに何を伝えたかったのだろう。
そして、なぜそんな言葉を残したのだろう。
今となっては、直接聞くことさえできない。
胸の奥に、言葉にできない寂しさが広がっていった。
「お父様は、その話を知っているの?」
「もちろん。あのとき、病室にいたから」
桜の表情が、わずかに曇った。
「でも、お母さんが亡くなってから、お父様は変わってしまったの」
「変わった……?」
「うん。昔は、もっとよく笑う人だったんだよ。私たちと一緒に遊んでくれたし、お母さんと旅行に出かけることもあった」
桜はマグカップを両手で包み直した。
「だけど、お母さんがいなくなってからは、何かを怖がっているように見えた。仕事ばかりするようになって、私たちとの会話も少なくなって……」
「何かを、怖がっていた?」
「うん。詳しいことは分からないけど、お父様は何度も同じことを口にしていたの」
桜は、少しだけ声を落とした。
「『もう二度と、同じ過ちを繰り返さない』って」
美雪は息をのんだ。
その言葉には聞き覚えがあった。
以前、父親が一人でつぶやいていた言葉と同じだったからだ。
「……お姉ちゃん。お母さんは、どうして入院していたの?」
桜はすぐには答えなかった。
しばらく考え込んだあと、ゆっくりと口を開く。
「病気だったって聞いている。でも、詳しいことは教えてもらえなかったの」
「お父様にも聞いたの?」
「うん。何度か聞いたことがあるよ。でも、そのたびに話を変えられちゃって……」
桜は寂しそうに笑った。
「だから、私もそれ以上は聞けなかった」
二人の間に、静かな沈黙が流れた。
美雪の脳裏に、父親が持っていた古い写真が浮かぶ。
あの写真に写っていた女性は、母親だったのだろうか。
そして、写真と一緒に置かれていた古い手紙には、いったい何が書かれているのだろう。
父親が長い間隠してきた過去。
そこには、自分たちが知らない何かがある。
「……私、いつかお父様に聞いてみる」
美雪は、静かに、しかしはっきりと口にした。
「お母さんのことも、あの写真のことも。ちゃんと知りたいから」
桜は妹の横顔を見つめた。
以前の美雪なら、父親の機嫌を損ねることを恐れて、こんなことを口にしなかったかもしれない。
けれど、今の彼女は違う。
自分の気持ちを押し殺さず、知りたいことを知ろうとしている。
そんな妹の変化が、桜には嬉しかった。
「うん。一緒に聞こう」
「ありがとう、お姉ちゃん」
美雪が微笑むと、桜も優しく笑い返した。
そのとき、テーブルの上に置かれていた桜のスマートフォンが震えた。
画面には、翔也からのメッセージが表示されている。
『明日の予定、覚えてる?』
それを見た桜は、思わず小さな声を漏らした。
「あっ……」
「どうしたの?」
「明日、翔也と会う約束してたんだった」
美雪は、少しだけ目を細めた。
「お姉ちゃん、最近、翔也の話ばかりね」
「なっ……! そ、そんなことないよ!」
「そうかしら?」
「もう、美雪までからかわないでよ!」
桜は頬を赤くしながら、手元のクッションを抱きしめた。
その様子がおかしくて、美雪は思わず笑ってしまった。
ついさっきまで、母親の過去について話していたとは思えないほど、リビングの空気が和らいでいく。
まだ分からないことは多い。
父親との関係も、母親の過去も、簡単には答えが見つからないだろう。
それでも、こうして姉と笑い合える時間がある。
今の美雪にとって、それは何よりも大切なものだった。
* * *
翌朝。
大学の練習室では、映像制作プロジェクトのオーディションに向けた練習が続いていた。
「はい、もう一回!」
蓮の声が練習室に響く。
「今度は、相手の言葉をちゃんと聞いてから反応すること! 自分の台詞を言うことばかり考えるなよ!」
「……分かってるわ」
美雪の身体に入った春馬は、手にした台本を持ち直した。
目の前には、恋人役を演じる蓮が立っている。
今回の台本は、恋人同士が別れを迎える場面だった。
互いに好きな気持ちは残っている。
それでも、相手を思うからこそ、別れを選ばなければならない。
そんな複雑な感情を表現する必要があった。
「じゃあ、始めよう」
蓮は台本を閉じ、春馬と向き合った。
春馬も小さくうなずく。
「……もう、終わりにしよう」
蓮が静かな声で告げた。
春馬は、すぐには返事をしなかった。
台本では、ここで相手を問い詰める台詞が続く。
けれど、その言葉がどうしても口から出てこなかった。
目の前にいる相手が、自分を嫌いになったわけではないとしたら。
何か事情があって、離れようとしているのだとしたら。
本当は引き止めたいのに、相手を苦しめたくなくて、何も言えないのだとしたら。
それは、かつての自分にも似ていた。
好きだった人の気持ちを尊重しようとした。
だから、拒絶されたあとも、無理に振り向かせようとはしなかった。
それでも、心のどこかでは何度も願っていた。
もう少しだけ、一緒にいたかった。
もう少しだけ、隣にいたかった。
そんな言葉を口にできないまま、胸の奥にしまい込んでいた。
「……どうして?」
春馬の声が、かすかに震えた。
蓮の目がわずかに変わる。
「君を、これ以上傷つけたくないから」
「……私は、そんなこと頼んでない」
春馬は、蓮の目をまっすぐに見つめた。
「勝手に私のためだって決めないで。私がどうしたいのか、ちゃんと聞いてよ……!」
最後の言葉は、今にも涙がこぼれそうなほど切実だった。
練習室が静まり返る。
春馬自身も、自分の口から出た言葉に驚いていた。
それは、台本にはない台詞だった。
けれど、今の自分には、それ以外の言葉が見つからなかった。
誰かに自分の気持ちを決められること。
自分のためだと言われながら、本当の思いを聞いてもらえないこと。
それがどれほど寂しいことなのか、今の春馬には分かっていた。
美雪が父親に伝えたかったことも、きっと同じだったのだろう。
「……ごめん」
蓮が、思わず小さくつぶやいた。
それもまた、台本にはない言葉だった。
数秒後、蓮は我に返ったように目を瞬かせる。
「……カット!」
彼は一度息を吐き、頭をかいた。
「いや、今のは……すごかったな」
春馬は戸惑ったように蓮を見た。
「え?」
「お前、途中から台本と違うことを言っただろ?」
「……ごめんなさい。つい感情が入ってしまって」
「謝るなって。むしろ、今のほうが自然だった」
蓮は真剣な表情で続けた。
「相手が何を言いたいのか、ちゃんと考えている感じがした。俺も思わず、台本を忘れて返事をしちまったよ」
春馬は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……ありがとう」
「ただし、本番では監督の指示をちゃんと聞けよ。勝手に台詞を変えすぎたら怒られるからな」
「分かってるわ」
「本当か?」
「……たぶん」
「たぶんって何だよ!」
蓮が大げさに声を上げる。
春馬は思わず笑い、蓮もつられて笑った。
そのとき、練習室の扉が開いた。
プロジェクトを担当している教員が、数枚の資料を手に入ってきた。
「二人とも、ちょうどいいところにいた」
蓮が姿勢を正す。
「先生、どうしました?」
「オーディションの日程が決まった。来週の土曜日だ」
春馬は思わず台本を握りしめた。
ついに、本番が近づいてきた。
「それと、今回は演技審査だけではない。参加希望者には、短い面談も行う予定だ」
「面談……ですか?」
春馬が尋ねると、教員はうなずいた。
「そうだ。君たちが何を表現したいのか、どんな作品を作りたいのか。それを自分の言葉で聞かせてもらう」
教員は二人の顔を順番に見た。
「技術だけで選ぶつもりはない。自分が何を伝えたいのか。それをしっかり考えておいてほしい」
そう言い残し、教員は練習室を出ていった。
蓮は大きく伸びをした。
「よし。来週までに、もっと練習しないとな」
春馬も小さくうなずいた。
しかし、胸の中では別のことを考えていた。
(俺は……美雪の夢を、ちゃんと守れるだろうか)
自分が演じているのは、美雪だ。
この身体で評価されるのも、選ばれるのも、彼女の名前だ。
だからこそ、自分の感情だけで動くわけにはいかない。
春馬は手元の台本を見つめた。
(美雪と相談しながら、進めていこう)
以前の自分なら、何でも一人で抱え込んでいたかもしれない。
けれど、今は違う。
二人で話し合い、互いの気持ちを確かめながら進めばいい。
そう思えるようになったことも、春馬にとっては小さな成長だった。
* * *
その日の夕方。
春馬と美雪は、いつもの公園で顔を合わせていた。
夕暮れの空は薄い橙色に染まり、木々の間から差し込む光が遊歩道を優しく照らしている。
春馬は、今日の練習で起きたことを美雪に話した。
「来週の土曜日にオーディションだってさ」
「そう。思ったより早いのね」
「ああ。それに、面談もあるらしい」
美雪は少し考え込んだ。
「面談では、あなたが私の代わりに答えることになるわね」
「……そうなんだよな」
春馬は困ったように頭をかいた。
「俺が勝手にお前の夢を語るわけにもいかないし、何を答えればいいのか、ちゃんと相談しておきたい」
美雪は、そんな春馬をじっと見つめた。
「ありがとう。でも、全部を完璧に答えようとしなくてもいいと思うわ」
「え?」
「あなたが感じたことを、正直に話してくれればいいの。もちろん、私の気持ちと違うことを勝手に決めつけるのは困るけれど」
美雪は、少しだけ笑った。
「あなたは、私が知らなかったことをたくさん見つけてくれたでしょう?」
春馬は黙って彼女の言葉を聞いていた。
「私も、あなたの身体で過ごすようになって、初めて分かったことがあるの」
「俺のこと?」
「ええ。あなたがどれだけ周りのことを気にかけているのか。それから、どれだけ自分の気持ちを後回しにしているのかも」
美雪は膝の上で手を重ねた。
「だから、今度はあなた自身の気持ちも大切にしてほしいの」
春馬は、思わず目を伏せた。
その言葉は、自分が美雪に伝えたかったことと、どこか似ていた。
いつも誰かのために頑張っている彼女に、自分のことも大切にしてほしいと思っていた。
けれど、それは自分にも当てはまることだったのかもしれない。
「……分かった」
春馬は小さくうなずいた。
「お互いに、ちゃんと相談しよう」
「ええ。そうしましょう」
二人は、しばらく夕暮れの空を眺めていた。
やがて、美雪が何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば、姉から聞いたことがあるの」
「桜さんから?」
「ええ。お母さんが亡くなる前に、私たちに残してくれた言葉があったらしいの」
春馬は静かに耳を傾けた。
美雪は、昨夜、桜から聞いた母親の言葉を伝えた。
自分の好きな道を選ぶこと。
誰かのために、自分の人生を犠牲にしないこと。
そして、自分の気持ちを大切にすること。
話し終えると、美雪は小さく息を吐いた。
「……私、今までその言葉を知らなかった」
春馬はしばらく考えたあと、穏やかな声で答えた。
「でも、今からでも遅くないと思う」
「……そうかしら」
「ああ。過去に何があったとしても、これからどうするかは自分で選べるだろ?」
美雪は、春馬の顔を見つめた。
彼は少し照れくさそうに笑った。
「まあ、俺もまだ練習中だけどな」
「何の練習?」
「自分の気持ちを、ちゃんと伝える練習」
美雪は思わず笑った。
「……あなたらしいわね」
その笑顔を見て、春馬も笑った。
二人はまだ、互いのすべてを理解したわけではない。
それでも、少なくとも今は、相手の言葉に耳を傾けようとしている。
相手の気持ちを知ろうとし、分からないことは尋ね、少しずつ理解していこうとしている。
それだけで、昨日までとは違う未来が見えてくる気がした。
* * *
その頃、東京駅。
黒神蓮は、父親から届いたメッセージを確認していた。
『来月、家族で大阪へ行く予定がある。お前も時間を空けておきなさい』
「……大阪?」
蓮は眉をひそめた。
父親とは仕事の話をすることはあっても、家族旅行の予定を突然伝えられることは珍しい。
さらに、続けてもう一通のメッセージが届いた。
『才園寺家とも会うことになっている。詳しい話は帰宅してからする』
蓮は、しばらく画面を見つめていた。
才園寺家。
つまり、美雪の家族とも大阪で会うということだ。
「何だよ……急に」
蓮はスマートフォンをポケットにしまった。
そのとき、少し離れた場所から声が聞こえた。
「おーい、蓮!」
翔也が手を振りながら近づいてくる。
「何してんだ? こんなところで」
「いや、ちょっとな」
蓮は苦笑した。
「来月、大阪に行くことになりそうなんだ」
「大阪?」
翔也は目を輝かせた。
「いいじゃん! 俺も桜と一緒に帰省する予定なんだよ!」
「お前もか?」
「そうそう。桜の実家も大阪だしな」
蓮は思わず顔を上げた。
「……待て。桜って、才園寺の桜さん?」
「そうだけど?」
「じゃあ、美雪も来るのか?」
翔也は少し考えてから、うなずいた。
「たぶんな。家族で帰るって言ってたし」
蓮は、何かがつながり始めたような気がした。
父親が突然、大阪行きを決めたこと。
才園寺家と会う予定があること。
そして、映像制作プロジェクトに両家が関わっていること。
偶然なのだろうか。
それとも、何か別の理由があるのだろうか。
「……何か、面白くなりそうだな」
蓮は小さく笑った。
翔也は不思議そうに首をかしげる。
「何が?」
「いや、何でもない」
蓮はそう答えると、歩き始めた。
その背中を追いながら、翔也はまだ不思議そうな顔をしていた。
* * *
その夜。
翔也は自分の部屋で、一人スマートフォンの画面を見つめていた。
表示されているのは、以前届いた一通のメッセージ。
送り主の名前を見るたびに、胸の奥が落ち着かなくなる。
「……大阪に行けば、何かが変わるのかもしれないな」
小さくつぶやき、画面を見つめ直す。
春馬には、まだ何も話していない。
美雪に伝えるべきかどうかも、決められずにいた。
このメッセージを見せれば、何かが変わってしまうかもしれない。
今まで保たれていた関係が、元には戻らなくなる可能性だってある。
それでも、このまま何もなかったことにはできない気がしていた。
「春馬……お前、これを知ったらどうするんだろうな」
返事をする者はいない。
静かな部屋の中で、スマートフォンの画面だけが彼の顔を照らしていた。
翔也は、もう一度メッセージを読み返した。
そこに書かれた言葉は、何度読み返しても変わらない。
変わってしまったのは、それを知った自分の気持ちだった。
いつか、この秘密を明かさなければならない日が来る。
そのとき、春馬と美雪、そして自分の関係はどうなってしまうのだろう。
翔也は答えを出せないまま、スマートフォンを伏せた。
まだ、話す覚悟はできていない。
けれど、秘密を抱え続けることにも、少しずつ限界を感じ始めていた。
* * *
同じ夜。
才園寺家の書斎では、父親が一人、机の上に置かれた古い写真を見つめていた。
写真に写る女性は、穏やかな笑顔を浮かべている。
父親は、その写真の端をそっと指でなぞった。
「……あの子たちに、話すべきなのか」
答える者はいない。
机の上には、映像制作プロジェクトの資料と、一通の古い手紙が置かれていた。
長い間、開封されることのなかった封筒。
そこには、過去に交わされた約束と、彼がずっと向き合えずにいた真実が眠っている。
父親は、封筒に手を伸ばした。
しかし、最後まで開くことはできなかった。
過去を語れば、娘たちは自分を許さないかもしれない。
それでも、何も語らなければ、いつか娘たちは自分の手の届かないところで真実を知ることになる。
彼は深く息を吐いた。
「……もう、隠し続けることはできないのかもしれないな」
窓の外では、夜の街が静かに輝いていた。
父親はもう一度、写真に目を落とす。
そこに写る女性の笑顔は、何年経っても変わらない。
けれど、その笑顔を見るたびに、彼の胸には消えることのない後悔がよみがえるのだった。
* * *
母が残した、たった一つの約束。
それは、時を越えて、今も二人の娘の心の中に生き続けている。
自分の人生を、自分の意思で選ぶこと。
その意味を知り始めた美雪は、まだ知らない。
母が残した約束の裏側に、父親が長い間隠し続けてきた、もう一つの真実があることを。
そして、その真実が明らかになるとき、彼女たちの運命もまた、大きく動き始めることになる。
第19話 完
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