76
令息はプリシラの反応に気にした様子もなく「君の父君との遠征にも参加できて嬉しいんだ。戦闘になるかもしれないのに不謹慎だとは思うんだけど」と言いながら、父が来ると「おはようございます」と挨拶に向かって行った。
「恐ろしい程の天然だな」
私がつい声に出して言ったのか?と思うほど同じ感想を第二王子殿下が仰った。
「殿下、おはようございます」
「おはよう。小侯爵が彼を警戒する理由が分かる気がする」
「それは…私はどういう解釈をすれば…」
「君が、また彼になびかないのも凄いな。彼女と違ってな」
「え?」と思って振り返ると、伯爵家の騎士団を見送りにいらしたと思われる、伯爵令嬢の姿があった。
確かに彼女は騎士団の見送りより、違う人を見送りに来たような雰囲気だが…あの令嬢どこかで…と思って見ていたら「バチッ」と彼女と目が合った。
令嬢は一瞬、眉間に皺を寄せたが直ぐに笑顔に戻って、皆への挨拶に戻った。
「お、君は敵認定されたかな?」
と殿下がプリシラを見る。
「今のは第二王子殿下、あなたと一緒にいるのを睨まれたんですよ?」
「あ…私か…」
自分も彼女の攻略対象だという自覚が無かったな?
「それに彼女には、もっと随分前から嫌われてましたから」
学校で最初に忠告された時も、校舎の裏に呼び出された時にも彼女はいた。
でももう彼女は卒業したから学校では会わないだろうけど。
父達の部隊の出発を見送った後、私達はイノ達の偵察部隊に加わって対岸に渡り、隣国の領土内を少し奥まで進んでホーリーの効果を見て回る。
徒歩なので、そんなに遠くまでは行けないが、それで十分だとイノは言った。
「プリシラのお陰でホーリーが見れて良かったよ。恐らくこの魔法を見れた者は、初代聖女とその娘の代だけだと思われるしな」
確かにそうかもしれないけど、あまり偉業の様にもてはやしては欲しくない。
私の実力ではないし。
そう伝えると「あの二人も杖で魔法を使ったんだから一緒だよ」とイノはそう言った。
第二王子殿下は私の隣でそれを、ずっと神妙な顔で聞いている。
私より実はこの人の方が凄いんじゃないの?
「殿下!殿下の魔法は?昨日のホーリーと同じような魔法が出来るんじゃないですか?」
プリシラは殿下の方を見て聞いてみる。
ちなみにホーリーを放った後の土地は、ライトアローと違って花畑が広がったりはしていなかった。
散々、高温の光が降り注いだのだ。地面はあちこちボコボコになっていて草木も一切無くなっていた。だけど大気は澄んで清廉な空気を生み出している。
他の神官達も「この辺り一帯は綺麗に浄化され、大地も生まれ変わっています」と言っていた。
つまりホーリーは光で焼き尽くして、新しい土台を作り出し再生させる感じだ。魔物も殲滅するけど生物も建物や土地もリセットだから、あまり多様性はないな〜。
それで殿下の魔法の質問に対する回答だが「重力魔法は魔法書が無いんだ」とそう仰った。それは驚きの回答だ!
だったらどうやって魔法を使うの?
もちろん属性の魔法は、魔力を込めるだけで簡単なものは発動するけど。
「兄上がずっと手伝って下さっていた。重力だから物を軽くしたり、逆に質量を増やしたり。それが基本なはずだからと、しばらくはそれを練習していた」
そう言えば第一王子殿下は、風で無重力を作り出して対応していたと仰っていた。
「なあプリシラ嬢、さっき自分と同じ魔法が使えるはずだと私に言ったよな?それはどんな魔法だ?あんな光を私も降らせられるのか?!」
なるほど。重力操作でできる魔法を、想像力で鍛えるところからなんだな。
呪文が無いから、余計にどんな魔法が使えるのか想像でしか分からないし、コントロールも難しいだろう。
それこそ次女殿下のように。
「殿下、先程、重力操作の練習をされてきたと仰ってましたが、そちらはもうコントロールに不安はありませんか?」
「ああ。もう自分の思い通りに操作できるが、12歳を過ぎたあたりから、もう兄上とは練習が出来なくなった」
「分かりました。だったらもう次の段階に進むべきですね。殿下、きっと重力魔法は光魔法と同じで補助魔法ができますよ」
「本当か?!」
「はい。屋敷に戻ったら伯爵家か砦の修練場をお借りして練習してみましょう」
「ありがとうプリシラ嬢!兄上がきっと君なら私の力になれるって言ってたんだ。本当だった」
あまり過度な期待は重いな〜と思いつつ、きっと彼も私と同じでずっと人の役に立ちたいと思っていたんだろう。
だけど前例の少ない属性のせいで、それが出来なかったんだ。
その気持ちが分かるから、つい協力してあげたいって思ってしまう。やっぱり自分はお人好しなんだろう。




