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「準備はいいか?」父に付き添われて橋を渡る。
侯爵令息が先導し、後ろから第二王子殿下とイノが着いて来ている。
川の魔物や対岸付近の魔物の確認、事前の討伐を砦の騎士団と伯爵家の騎士団がやっておいてくれたそうだ。それでもいきなり魔物が発生しないようにとプリシラは念の為、川に向かってライトアローもかけておいた。
それでも聖女の杖だと魔力を使っている感覚は一切ない。
まるで杖から無限の魔力を引き出しているような感じだ。その感覚がとても恐ろしい。
きっと自分の体力の限界まで魔法が使えてしまうという事なのだ。自分はもしかすると、とんでもない魔法兵器になり得てしまう。
「どうした?まだ躊躇する気持ちがあるのか?」
「ううん。お父様、ごめんなさい。ちょっと別の事を考えてて。ちゃんとホーリーに集中するから」
「あ、いいやお前に別の事を考える余裕があるなら、それに越した事はない」
「もっと恐ろしい事を考えていたんだよ」とはさすがに言えない。
「小侯爵様」
プリシラは後ろから来ているイノに呼び掛ける。
「何だいハニー?」
イノは侯爵令息が加わってから、更にハニー呼びが激しくなった。
正直意味分かんないし鬱陶しいが、今はそれもどうでもいい。
「ホーリーが成功して王都に戻ったら、姉殿下の愚痴ノートを読ませてもらえませんか?」
「良いよ。プリシラは頑張る子だからね。でも出来れば妹殿下の日記も交換で読ませてもらってもいいかな?」
「構いません。小侯爵」
それを答えたのは父だ。うちの家族は父だけしかアレを全部読めていない。
果たして侯爵家の人々も読破できるのか…そこは楽しみだ。
「よしプリシラ、周囲は大丈夫だ。魔法を展開するなら今だ」
侯爵令息に言われて、プリシラは一歩前に出て聖女の杖を握る。
父が侯爵令息と自分に、イノが自分と第二王子殿下にバリアを張った事を確認して杖を回してバトンにする。
本当ならきっと呪文は要らない。
直ぐに魔力を込めてイメージ通りに魔法を放つだけだ。でもプリシラはせっかく覚えた呪文を唱えていく。
途中で息が続かなくて詠唱が途切れても、かかる時間が大体、予測できるし呪文を唱えながら発動のイメージもできる。
本来の詠唱呪文に近い形で発動出来る事も、今後の参考になるはずだ。
プリシラは両手でバトンを回転させ、呪文を詠唱し切って魔法陣をドカンと放つ。
すると次の瞬間、空から無数の白く光る光線が降り注ぐ。
それはまるで大雨が降るような…いや大量の流星群が降ってくるような無数の強い光が、辺り一体を昼間のように明るく照らした。
凄い!やっぱりライトアローの比ではない。
しかも確実に光線は地表にぶつかっていて、ドスドスと軽い地響きと共に、音と地煙も上げている。
これは人が住む場所の討伐には絶対、使えない!
どれぐらいの間、光線が降り続いたのだろうか?
自分的には長く感じたが、光線が降った時間はおよそ1分間くらいだったそうだ。
その日は夕食後、明日に備えて直ぐに就寝する事になった。
明日の朝からは父や侯爵令息、砦の騎士達、伯爵家の騎士の皆さんが必要な伯爵家の守りの騎士達だけを残して、隣国の内陸に向かう。
第一王子殿下一向を迎えに行くのだ。
予定では10日以内には戻ると言うが、皆、無事に戻ってきて欲しい。
今夜は砦の野営地にテントを張って宿泊する。
本当は伯爵様が「屋敷にどうぞ」と言って下さったのだが、第二王子殿下もイノも「テントに泊まってみたい!」と言い出したのだ。
お前達、絶対、キャンプ気分だろ?
でも殿下は「私もそのうち討伐に出るだろうから」と少し真面目な理由を言っていたけど、イノはただの好奇心だな。
翌朝、テントを出て水場で顔を洗っていると、侍従殿が私のタオルを持って立っていて、渡してくれるのかと思ったらそのまま顔を拭かれてしまった。
「おや?プリシラ嬢はスッピンも変わらないのですねぇ?」
侍従殿に顔を覗き込まれて言われる。
「それは当然です。普段、化粧なんてしませんから」
「私はてっきり幼女メイクかと」
どんなメイクだよ!
「ブルーノ、逆だろ。化粧しないから幼く見えるんだよ」
「あ、殿下おはようございます」
「その髪型も原因じゃないか?」
私のぱっつん前髪の事だな?
「ん、いーんです。放っといて下さい」
今のところ幼女扱いは案外都合が良い。それにどうせずっと使える設定でもない。せいぜいあと二、三年だ…多分?
朝食後、騎士の制服に着替えて出発する父達を見送ろうと橋の麓に向かうと、すでに準備を終えた侯爵令息がいた。
「おはようございます。令息、お早いですね」
「ああプリシラ、おはよう。昨日は少し曇っていたが今朝は良い天気だな」
「本当だ。朝日が眩しい」
プリシラが目を細めていると、令息が近寄って来て「スッ」とプリシラの髪を一筋すくって微笑む。
「もう土属性には見えないな」
「…それは、どうも…」
私は恐ろしい程の棒読みで返して、素早く髪を奪い返していたと思う。
早朝から、キラー行為はヤメテ頂きたい。
でもお陰で一瞬で目が覚めた。




