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私は午前中の移動でたっぷり寝れたので、午後の移動ではギターモドキを奏でていた。
もちろんホーリーの練習だから、リラックスできる曲ではない。ただ馬車内で声を張り上げて歌う訳にもいかず、呪文の暗記確認のつもりで音を鳴らしながらブツブツやっていた。
向かいの第二王子殿下は紫のウサ耳帽を目深にかぶり眠っている。侍従殿も緑のウサ耳帽をかぶってお休みだ。
だが灰色ウサギは私の作業をさっきからジッと見ている。
「小侯爵様、うるさいですか?眠れませんよね」
「いや。改めてプリシラが呪文を覚える過程を見て、面白いと思ってただけだから気にしなくていいよ」
「じゃあ、もう少し練習します」
プリシラがまた練習し始めると、いつの間にかイノも帽子を目深に被り、眠っていた。
この馬車の空間にウサ耳帽を目深に被り、眠る高貴なイケメンが3人…なんか変なの。
それに、さっきからずっと呪文の「下層、仮装〜」の息継ぎ無しの、激しいくだりを演奏していると言うのによく眠れるな?
早朝出発だったからかな。
プリシラは一旦、ホーリーを中断して前世で流行った楽曲を奏で始める。これは彼が好きだったR&Bのヒット曲だ。
彼は普段、登下校中や休み時間にヘッドホンでよく色んな歌手のR&Bの歌を聴いていた。
母親はドイツ系アメリカ人だったが、彼の父親がハワイ出身の日系2世という事で、彼も少し日本語が喋れたから仲良くなった。
実を言うとプリシラの前世の初恋の人だ。
ジュニアハイスクールで出会った時、彼はすでにR&Bにハマっていて、この音楽をやりたくて作詞作曲を勉強していると言っていた。
ハイスクールは違ったけど、メールではずっとやり取りしていた。
私は彼と一緒に父と同じジュリアード音楽院に入る事を目指していた。
私の初恋の人、アーモンド…彼の兄はカシューで、妹はヘイゼルという名前なんだって言って笑ってた。
まさにナッツ三兄妹だ。
第二王子殿下は、今は帽子を目深に被っているせいで顔は見えないが「何であんなに似てるんだよ…」心の中でそう呟く。
まさか彼も転生者?プリシラも前世の容姿にそっくりだったら、彼も私を見て何か反応しただろうか?などと考えながら、前世でヒットしたR&Bを歌詞なしで奏でていると「良い曲だな」って王子殿下が帽子を指で少し持ち上げて、プリシラを見ながら言ってきた。
「でも、その音楽…また眠くなる…」と帽子を再び下げて、また眠ってしまった。
やっぱり違うか。もし前世の記憶があればこの音楽にも、きっと反応したはずだ。
「他人の空似だな」そう思うことにして、またホーリーの練習に戻る。やっぱり聖女の杖がなくても魔法を起動できるように詠唱を可能にしたい。
そうだ!お風呂の湯船に潜って肺活量を鍛えるのはどう?
何でも試せるものはやってみようとプリシラは思ったのだった。
王都を出て2日経った頃、合流して来た人に驚いた。
「侯爵令息!」
「やあプリシラ、冬休み振りだな〜元気にしてたか?」
「はい。私は元気です。それより令息、こちらは第二王子殿下です。そしてこちらは次期大神官となられる小侯爵様です」
「第二王子殿下、小侯爵様、初めてお目にかかります。侯爵家のレオナルドです。侍従殿もお久し振りです」
「私は第二王子のアーノルドだ。宜しく令息」
「私はプリシラのダーリンだよ。令息、宜しく」
「今回はアーノルド様の侍従として、再びプリシラ嬢のお世話をさせて頂いております。またお会いできて嬉しいですよ。令息」
「…何か皆、挨拶内容がおかしくないか?殿下以外」
まともに取り合うな!
「でもどうして令息がこちらへ?」
「私は冬休みから、ずっと王都に戻らず領地にいたんだ。第一王子殿下にも、国境の河川の様子を見るように頼まれていたからね。まあそれを授業単位にしてくれるって言うのもあって」
「もしかして、私達はまた国境に向かっているんですか?」
「あれ?マイハニーは目的地を聞いてなかったのかい?」
「うん。行けば分かるかなって思ったから」
「伯爵も説明してなかったのか?」
殿下もビックリしている。
「ハハハッ細かい事を気にしないプリシラらしいな。これから向かう場所は明日には着くよ。侯爵領の隣の領地だけど、そこは川幅が狭いから対岸と結ぶ橋がかかっていて陸路で隣国に渡れるんだ」
何だか氷の奇行子が一番まともに見えるのは気のせいかな?




