63
「イノチェンツィオー!!」
「父上、叫ばなくても聞こえてます。ずっと向かいに座っているじゃないですか」
「これが叫ばずにいられるかっプリシラの奴が、またやりおった!」
「二種類の魔法の掛け合わせですね?なるほど考えたもんだと思いましたよ。さすが15歳、脳が柔軟だ」
「イノ、でもそれだけじゃないわ。あの子、呪文の意味を無意識かもしれないけど理解しているわ」
「そうだ!あの難解な意味不明の言葉の羅列を理解しなければ、魔法の掛け合わせなんぞ出来るはずがない。イノチェンツィオ!直ぐにプリシラを呼び出しておけっ」
「父上、そんな事よりも、もっとプリシラに神殿からも感謝を伝えるべきですよ?」
「そうだわ、お父様。この冬は国境の河川の浄化の影響で、魔物の発生が抑えられた可能性が高いわ」
「そんな事、分かっておるわ。だからアレを渡してやるのだ」
「アレですか?」
「そうだ。プリシラになら出来るかもしれん」
「でもお父様、そんな事したら…いっそプリシラを神殿で保護したいわね」
「それは無理だろう」
「無理だろうな。伯爵家は昔から家族の絆が強い。それにプリシラはきっと負けんじゃろ?」
「そうだな」
「そうねぇ。フフフフ」
「なあ第一王子よ、余は “聖女の魔法書” をプリシラに授けようかと思ったのだが、先に神殿が動くそうだ」
「そうですか。それで良いのでは?順を追って学ぶべきでしょう。聖女の魔法書では、プリシラは一足飛びにそちらに食い付きますよ?」
「そうだな。そなたはどう思う?このタイミングでのプリシラの存在は?しかも第二王子の属性との関係性もだ」
「さあ全く。アーノルドが学校に入学すれば分かることでしょう。生徒会で、プリシラとも接触するでしょうし」
「この春に入学するのは第二王子だけではない」
「そちらの方も心配をされておいでですか?これまでだって侯爵家、伯爵家、両家以外からも、まれに光属性の子女の入学はあったはずです」
「ああ、しかしほとんどが両家の遠縁である事が多かったであろう?今回は全く無縁の者だ。しかも平民出だと言う」
「子爵令嬢として入学すると伺いましたが?」
「ああ。子爵家の領地で本人が10歳の頃に見つかったそうだ」
「なら下位貴族ですし、貴族令嬢としての教育も間に合ったのでは?」
「そうだな。光属性は見つかっただけでも僥倖であるしな。第二王子の入学と重なった故、少し神経質になっておったかもしれん」
「はい。私も最終学年にはなりますが校内の事に関しては、引き続き気に掛けておきます」
「頼んだぞ、第一王子」
「御意に」
「アーノルド、少し良いか?」
「兄上、このレポート拝見致しました。このプリシラという令嬢は天才なのですか?」
「ああ、それに近いな。しかし見た目は幼なげな少女だが、中身はとんでもない…」
「とんでもない?」
「あ〜何と表現するか難しいな。一見、猪突猛進のようだが用心深くもある。性格も優しくて情け深いが、どこかトゲがあり毒もある。ああ、だけど何より正義感があるな。光属性なのをとても誇りに思っている。家族の事も」
「そうですか。だからこの魔法を思い付くのですね?」
「そうだな。きっとお前の事も導いてくれる気がしている」
「兄上がではなく?」
「私はもう風属性としては、お前の助けにはなれない。出来ることも試せることも全てやった。お前の属性の前任者が、今は居ないのは残念だ。記録も少ないしな。だがプリシラがきっと新しい視点をお前にくれるだろう」
「兄上は随分、その令嬢の事を買っておいでなのですね?それで、私の同級生になる新たな光属性の令嬢はいかがなのですか?」
「気にかける必要はない。と言っておきたいが、あちらは生徒会への参加を希望してきた。それは光属性故、こちらは拒めない」
「分かりました」
「交友はお前に任せる。必要が無ければ、どちらともつるむ必要はない。生徒会長になるルイスは冷静かつ柔軟で優秀な者だ。伯爵家の者だが頼りになる。他の役員も同様だ。心配するなアーノルド」
「うん。兄上」




