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翌朝、侯爵令息の案内で国境の河川を視察しに向かった。
川は侯爵邸から馬車で15分ほどの距離にあって、あっという間に到着した。
プリシラは目の前に広がる川に目を見張る。
「凄く大きい。対岸が見えない!」
「この辺りは特にそうね。もっと対岸が見える上流も下流もあるけど、この河川は物流や漁業の要としても重要なの」
プリシラの隣にいるセザンヌが説明してくれる。
プリシラは川の中を覗き込んでみる。
水は少し濁っていて水底までは見えない。でも浅瀬では小さな小魚が群れて泳ぐのが見える。
「あまり近付くと危ないわ。魔物が急に出て来る可能性があるの。陸地と違って水の中から急に出て来るから、船上だけではなく水辺でも緊張を解いてはダメよ」
確かに陸地では森の中ではない限り、向かって来る魔物に対応する時間がある。
「いきなり毒を吐いたりするのですか?」
「それは様々よ。毒を吐き散らす魔物もいれば、消滅する間際に毒を四散する魔物もいるの。でも毒を持つ魔物は小型が多いから倒すのは苦ではないわ」
「水性の魔物も海と同じ?」
「海の魔物は本での知識しか知らないけど、この川の魔物には陸地にも僅かなら上がれる水陸両用の魔物が多数いるわ。大型の魔物の姿はワニやヘビに近いかしら」
川の近くには侯爵騎士団の見張り台などの詰め所もあるが、漁村もある。漁村にも自警団があって川からの魔物を交代で24時間見張っているそうだ。
そして自警団のメンバーが漁船にも必ず乗り込んで漁の間、漁師の安全を守るそうだ。
川の水面は朝陽に当ってキラキラと眩しく光っている。
時々、コイのような魚が飛び跳ねたりして一見、平和そうだ。
「プリシラ、試すか?」
「殿下、思ったより河川が大きいので、どこまで音が伝わるか…」
「聖女の杖を先に試したらどうだ?」
「えっ?!皆の前で?」
しかもこんなに明るいし…。
「なぜ躊躇う?」
殿下にこの気持ちは分からないよねぇ…きっと他の誰にも…。
恥ずかしがっているのは所詮、私だけなのだな。
そう思うと諦めも早い。プリシラは腰の剣帯に刺していた聖女の杖を取り出す。
「わあ可愛い!」
セザンヌの称賛に、女子はこのデザインが好きなんだな?コレをそう思える気持ちが羨ましいわと思いつつ「クルリ」と回してバトンにする。
「おぉ魔法少女ぉ〜」
とポールさんの声が聞こえてイラッとする。
「プリシラが集中するから、皆、私語禁止だ!」
殿下、そこは分かってるんだな。
でもこの杖を持ちたくない気持ちも知って欲しいんだけど…って無駄か。
分かっても、きっと彼は使わせるんだ。
プリシラはバトンを回しながらライトアローの呪文を唱えていく。
前世、父の楽曲 “デッドエンドラン” 父の腹から出す歌声を思い浮かべる。
「逃げろ、逃げろ、男よ逃げろ!」彼は一体、何で追われているのかも、何から逃げているのかも分からず、ただ逃げるだけの歌。救いが無い。だけど杖からは溢れるような魔力が漲ってくる。
マジで魔法と矛盾する歌を選んでしまったけど、やっぱり呪文とのマッチングが良いんだよな〜と思いながら魔法陣を展開する。
「さあ川よ、浄化されてまえっ!」
プリシラの放った魔法陣が川の中心部に「ドカン」と飛んで行き、ライトアローの魔法が眩しい光を発しながら展開される。
墓地でも眩しかったけど、朝でも眩しいのね…この魔法。
「これが…光の初級魔法か…?」
殿下の呟きが聞こえる。
「これで初級なのかっ?!」
侯爵令息が眩しさに目を細めつつ見開いている。器用だな。
「氷の初級魔法って何ですか?」
プリシラはふと疑問に思って令息に聞いてみる。
以前、淑女科の先輩達にかけてた「アイスノン」だろうか?
「アイスノンだ」
令息はまだ川面を見つめたまま放心したように呟いた。
ビンゴ!じゃあ風は…「エアリズムだ」先に殿下が察したように教えてくれたけど、吹きそうになって寸前で堪えた。
それってウニクロの下着じゃん。




