47
私達は順調に侯爵領に向かっていたが、あと1日で到着するというところで侯爵令息が仰った。
「次に通る領地は昨年から領主の討伐が追い付かない領地なんです。なので、いつも侯爵領から王都まで行き来する道中で、必要があれば手を貸していました」
聞けばその領地の子爵家は領主が高齢で、しかも子供達を相次いで討伐で失ったそうだ。胸が痛む…。
「そうか。なら領主に挨拶して、手伝いと一緒に今後の話し合いもするよ」
「そうしてくれると助かるよ。殿下」
領主の義務が果たせなくなった時は、新たな領主を立てる申告を、国に早急にしないと他の領地にも迷惑が掛かる。
ただこの子爵家の次期子爵は昨年の冬に亡くなったばかりだそうだ。だから喪に服しているのもあったけど、まだ領主の決心が出来ないでいるのだろうと侯爵令息は説明してくれた。
子爵領に到着して殿下は子爵家当主に挨拶に向かわれたが、侯爵令息は子爵家の執事に子爵領の今の状況を聞いている。
幸い、子爵領はまだ魔物は発生している様子はないそうだ。だけど街中をさっと見回りする事になったので私も着いて行くことにした。
「大丈夫か?こっちに着いて来て」
「動かないとお尻が痛いんです」
「そっかプリシラは魔法騎士志望だし馬車移動は退屈だよな?」
「殿下がご一緒ですのに、退屈なはずがありませんわ」
「プッ!そういうのイイって、もうバレバレだろう?」
実際、私は馬車内で殿下の許可を得て、ギターモドキで魔法を練習していたのだ。
だから案外、退屈などしていなかったのだけど。
私は子爵家の馬をお借りして一緒に領内を回る。
子爵領の領主様はとても良い方なのだろう。ちゃんと街も行き届いていて平和そうだった。それに領民も領主様をとても心配していた。
次に来るかもしれない領主の事も心配していたけど。
それは彼らも生活と安全がかかっているのだから仕方がない。
領主邸は少し小高い丘の上に建っている。だから屋敷の応接室のデッキからは街が一望できる。
真冬なのに今日は天気も良く綺麗な青空が広がっていた。
プリシラは屋敷に戻ってからデッキに出ているイスに座り、何気なくギターモドキを奏でていると、中からプリシラの演奏に合わせてピアノの伴奏が聞こえてきた。
侯爵令息が弾いているんだ!
次は彼の知らない曲を弾いてみようと思っていたけど…彼なら着いてくるかな?と以前、討伐負傷者が入院する病院でよく弾いた曲を演奏する。
これは病院でもリクエストが多かった歌だ。
歌詞もバトル物のアニメのエンディング曲だったから、共感できる部分も多かったんだろう。ただこの歌、男性歌手の高音で歌われていたから良かったんだろうな〜ハモリもあったし。
私、プリシラは幼なげな見た目通り声が高い。前世の私とはこの点も逆だ。でもだから透き通るような高音の歌声だ。
間違ってもアニメ声ではないぞ!
アニメソングではあるけれど…歌ってて気付いた。
「おやっ?」侯爵令息のピアノ伴奏も私の演奏に着いてきている。
「凄いな〜この歌、知ってるの?まさかねぇ」と思っていたら、応接室に「バンッ」とドアを乱暴に開けて入って来る人がいた。
しかも「プリシラー!!」って叫びながら。
そのこぶしの回った叫び声、前世の父の楽曲に使える!って、そんなどうでも良いことより驚いた。
「ポールさん!!」
そう彼は夏に討伐負傷者病院に、下半身不随で入院していた患者さんだった人だ。
「やっぱり!この歌が聞こえてきたから慌てて来てみたら!何でココにいるんだ?プリシラ!もしかして俺と結婚してくれるのか?」
その時、ピアノが「バーンッ!」と鳴った。いや叩かれた?
「わっ怖っ!プリシラの彼氏?」
「いや氷の貴公子…奇行子?」
「殿下っ!第一王子殿下っ!あいつプリシラに言い寄ってやがりますよ?」
令息はポールさんと共に応接室に入って来た殿下に、大声で告げ口している。やっぱり奇行子だ。
指さすんじゃない!それにガキかよ殿下に言い付けんなよ。
「侯爵令息、子爵家の後継問題は解決した。子爵家の次男が全快して戻って来てたんだ。彼が後を継ぐそうだ」
殿下!スルー機能がとても素晴らしい拍手もんだ!
パチパチパチパチッ!
「何の拍手だよ?」
「令息、何って後継問題が解決した事に決まってるでしょ」
半分は殿下のスルー機能にだ。
そしてポールさんの結婚発言はちゃんと冗談だった。
彼は半身不随になったせいで、一旦、別れた恋人と復縁するしないのいざこざがあって領地に戻ったのが冬間際なったそうだ。
子爵領に関しては、とりあえず “めでたし めでたし” だ。




