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馬車内は私と殿下と殿下の侍従だけだ。
侯爵令息は他の侯爵家の者達と馬で向かっている。普段から彼らは身軽な馬での行き来が多いそうだ。
確かに私達も馬だけだと馬車より半日ほど早く領地に着く。
それでも領地は王都から割と近い方だ。侯爵家も国境の割には近い。どちらも馬車で3日ほどだ。
「プリシラ、これは魔法陣の刺繍が施してあるんだな?」
殿下が姉に渡されたハンカチを広げながら仰る。
やっぱり気付いたか。
「ええ姉は刺繍が得意ですから」
「貴重な物を頂戴したな」
「別にいいんですよ。姉は沢山作ってますし」
それに殿下と侯爵令息には多少の下心もあるかもしれないしな。
だけど確かに凄い代物だと思う。
姉は光魔法の魔法陣を刺繍で施すのだ。だからそれは必要な時に魔法として発動する。私が音楽に魔法を込めるのと似ている。
私のは物理攻撃回避のハンカチだ。姉に何がいいか聞かれて、それをリクエストしたのだ。
家族もリクエストしたハンカチを持っている。
なんなら魔物討伐にかかわる伯爵家の騎士達も使用人達もだ。
「第一王子殿下のは…」
やっぱりお姉様頑張ったんだ!全ての攻撃回避になっている。
しかも中級だから時間もかかっただろうな。
「良かったですね。ほとんどの攻撃は一度は全てかわせますよ」
「それは大事にしないとな」
「大丈夫ですよ。普段使いしても魔法の効力は消えませから」
「でも一回限りだろ?」
「そうですね〜御身を守った後は、好きなだけ令嬢に貸してあげて下さい」
「…なんかその言い方、気に触るな」
「でも王子として重要な事でしょ?」
「なあプリシラ、旅の間、私の事は“レイ”と呼んでくれないか?」
プリシラは大きく瞬きしながら尋ねる。
「王家の馬車なのに身分を隠さなくてもいいのでは?」
「第一王子殿下とか長いだろ?それに殿下と呼ばれるのも、あまり好きではない」
そう言われてプリシラは考える。
生徒会の面々ですら、殿下を名前呼びしているメンバーはほぼいない。
だったら無しだ。
「“ノルド”の方じゃあ無いんですね?」
「あっちが“ナルド”だろ」
「あ〜」
侯爵令息はレオナルドだった…ややこしい。
「それに弟もアーノルドなんだ」
「へ〜第二王子殿下も黒髪なんですか?」
「ああ。弟も妹も黒髪だ」
そうかきっと皆、美形揃いなんだろうな。王妃様ももの凄い美女だ。
「弟は来年、学校に入学してくるよ。生徒会にも入るだろうから宜しく頼むよ。きっと我々は最終学年に入ったら現場に出て忙しくなる」
そっか〜私も来年は生徒会続行か〜少しショック。
だけど確かに私の姉も最終学年に上がって色んな植物を扱う農場に出向いてた。一緒に学校に通ったのはほんの一時だった。
でも殿下はきっと沢山の討伐先に行く事になるんだろう。
「そのハンカチが直ぐに使われない事を祈ってます!」
私はとりあえずそう言っといて、その後、昼食休憩で起こされるまで爆睡した。
いや爆睡していただ。
殿下に起こされ、横の侍従には苦笑いされてしまった。
私は見た目より図太いんだよ。なんせ今世の人生が16歳から始まっているんだから。
「プリシラ!プリシラ、なあコレ!このハンカチの柄は魔法陣だろ?!凄いな〜何の魔法?」
「少々、お待ち下さい侯爵令息」
そう言ったのは殿下の侍従殿で、私の顔を拭いて下さっている。
「何があったんだ?」
「いや…朝が早かったせいで爆睡しちゃって」
「は?殿下の御前で?」
「そう。だから殿下の侍従殿が気を利かせて下さって…」
「ああ…お前やっぱり年齢サバ読んでいるだろ?本当は12歳だろ?」
「それ殿下にも言われました」
「やっぱ12歳だから俺や殿下にも靡かないんだろ」
図々しいな!
言っとくけど私の人生はお前らの年齢から始まってんだよ!
「はいはい。12歳のお子様に色仕掛けはロリコンですよ〜」
お前も愚か者だと言っておく。
「ブハハハッ。だからプリシラは面白いんだよ」
逆にウケた…。
「この刺繍は…」
令息のハンカチの図柄を見ると…これも殿下と一緒だ!
ちょっ姉の本気度を感じるな〜。
「ほとんどの攻撃を無効化する魔法だから大事に使って下さいね」
「凄い!そんなのくれたんだ!じゃあ大事に閉まっとく」
「そうそう令嬢に貸す時は、魔法を使い終わってからですよ?」
「え?そんな事しないよ。魔法の効果を使ってしまっても、自分を守ってくれた大事なハンカチを他人に渡すはずないだろ?」
ん?令息は殿下と反応が違うんだな。
「命の恩人じゃないか!人じゃないけど」
そっか彼は殿下よりも実戦経験が多いから、そう思うんだろうか?




