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「あなた、お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
「今日の会議はどうだったの?」
「ああ。今年はまだ魔物の発生が小規模でしか起こってないだろう?各地で起こってはいても例年よりは少ないらしい。それに中規模の発生がまだ起こってないんだ」
「まあそれって…」
「ああ。夕飯の時に皆で話そう」
「それで…中規模の発生は起こらないとダメなの?」
「プリシラ、例年だと小中規模の発生が断続的にあれば、大規模の発生は抑えられる傾向にあるんだ。だけど小規模の発生しか起こってないとなると…」
「じゃあ大規模の発生が急に起こるかもしれないの?」
「ウルスラ、そういう可能性があるという事だな」
「でも魔物発生の兆候は神殿で分かるんでしょう?」
「そうね。それに神殿で日々、悪意を浄化して発生を抑えてくれているわ」
「そうだが、急な発生は兆候を感じても対応が間に合わない時がある」
「神殿が兆候を感じ取る前に起こるってこと?」
「そうだ。過去に何回も起きているんだ」
「それは他の方法で、兆候は分からないの?」
「プリシラ、悪意を先に感じ取れるのは光魔法だけなのよ。それに大神殿と各地の神殿だけでは全てを網羅できない場合もあるわ」
「そうだ。だから我々はいつでも、魔物の大量発生が起きる事を想定して備えておかねばならない」
その日の夕飯は魔物の大量発生の備えの話に終始して暗い感じで終わった。
プリシラはギターモドキを片手に、今後はピアノで練習した上級魔法を全てギターモドキでも出来るように練習すべきだと感じた。
それに聖女の杖…。
杖でも上級魔法を試してみなきゃ。
そして家宝であっても、常に杖を携帯する事も念頭に置いておかないといけないなと思う。
魔物の急な大量発生なんて杞憂で終わるといいけど…部屋の窓から空を見上げると大きな天体が三つ。
本当にあの手前に見える赤い天体は、前世では肉眼で見た事がないから不気味に感じる。
しかもこの世界では、あの赤い天体を“ニコラ”なんて可愛い名前で呼んでいて、赤い髪の女性はニコラ、男性はニコラスと天体ニコラにちなんで名付けられたりして、意外と人気だったりする。
プリシラ的にはニコラさんには申し訳ないがあり得ない。
あの星まではどれぐらいの距離なんだろう?
だけど赤いから低温で酸化鉄が取り巻いていそうだ。前世の火星とか…ちょっと待って?!場合によっては赤い星は高齢の星じゃなかったか?超新星爆発間近とか習った気がするんだけど…。
もしかして悪意の兆候よりニコラの健康状態の方も心配じゃない?考え過ぎか?こんな時はイノ?いや第一王子?
そう言えば学校の必須授業に、天文気象学があるから面倒な男達よりも、その学科の教授に聞いてみればいいか?
しかしその学科で習うのは、主に天体で位置や方角を確認する方法や、天気と気候の予測の仕方、天候による魔法属性への影響なんかだ。天体自体について学ぶ内容はない。
教授は天体自体についてどれぐらい研究されていて、ご存知なのだろう?
ニコラについて気にはなるが、でも今はきっとそれを気にかけている場合ではない。プリシラはそう考えて、ギターモドキでの魔法の練習に頭を切り替えた。
学校が休みの日の朝、プリシラがペルセウスの側でギターモドキを奏でて呪文を練習していると、夜勤で騎士団の勤務を終えた兄が帰って来た。
「お兄様、お帰りなさい。お仕事お疲れ様。朝からうるさかった?」
「あぁいや、お前の演奏でうるさいと思ったことは一度もないよ。お前、多分魔法使いじゃなくても音楽家でもやっていけるよ」
「アハハッありがとうお兄様。ねぇお兄様、あの赤い天体のニコラだけど、研究者っているのかな?」
「そりゃ居るだろ?誰かは知らんが」
「そっか、やっぱり学校で教授に聞いてみるか」
「何か気になるか?」
「ん〜と、何で赤くて、あんなに大きく見えるのかな?って」
「前より大きく見えるか?」
「それは分かんない。私、まだ15年しか生きてないから」
「お前の髪と一緒でじわじわ変わっていたら分かんないかもな」
「侍女のサラはお兄様より先に、髪の色が薄くなったんじゃないか?って気付いてたよ」
「そうか。でも次に爺様や婆様に会ったら二人もきっと気付くぞ」
「うん。杖のせいだって言っとく」
「そうだな。それが良いかもな。プリシラ、ニコラについて何か分かったら、私にも教えてくれ」
「うん。分かった」
休み明けに授業で聞こうと思ったのだが、なんとそれどころじゃなくなった。
中規模の魔物発生の兆候があったと神殿から騎士団や魔法師団、各所に連絡が入ったのだ。
伯爵家も父と兄が出動する事になった。




