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この世界は、国同士の戦争は遠い昔から条約により禁止されていて、人間同士争うことはないが魔物が存在している。
魔物は人々の負の感情が発生源と言われている。
人間がいる限り、負の感情が無くなる事なんてないのだ。だから魔物も絶滅する事はなく無限のサークル状態だ。
そして魔物も少しずつ発生してくれればいいのだが、ある日、どこかに溜まった負の感情が一気に爆発して、魔物が大量発生することがある。その予兆や兆しを神殿の光魔法使い、いわゆる神官達が常に魔法を張り巡らし探している。
魔物は発生する前に兆候が分かる時が多い。
だから都市で不意に発生しても、直ぐには被害が出ないようにバリアを張ったり住民の避難も可能なのだ。
聖女様の仕事も神官と同じで、女性神官のトップが聖女様、男性神官のトップが大神官様だ。
プリシラは座学よりも身体を動かすタイプだ。
だから薬学ではなく魔法騎士の道を選んだのに、まさか魔法も暗記重視とは…プリシラは5歳にして壁にぶち当たり、初めて挫折を味わったのだ。
屋敷の出窓でボーッと遠くを見ながら、打ちひしがれる娘の姿を見つめ、父親はやはり5歳の娘にはまだ魔法学は難しかったのではないか?と声を掛けようとした。
普通の5歳児なら、まだ文字を覚えている最中か絵本を読んでいる年頃だ。
「ガッカリすることはない」と、そう声を掛けようとした矢先、プリシラが父親の気配に気が付いて「お父様!お父様は何個、あの長い魔法を覚えているのですか?」と唐突に質問してきた。
「そんなに沢山は覚えてないよ」
父親は驚いたが、微笑んでそう答えた。
長文呪文の暗記は魔力量に関係なく、大人でも相当大変なものだ。特に光の呪文は他の属性のものよりも長い。
自分だけじゃなく父も苦労しているのを知っている。
「ただ光の魔法使いは、とても少ないんだよ。だから少しの光魔法だけだったとしても、使えるだけで皆が助かるんだよ」
「魔力が少なくても?」
「そうだよ」
「暗記が下手で2個くらいしか覚えられなくても?ううん、きっと1個くらいしか覚えられない」
プリシラの大きな目に涙が溜まる。
「例え1個だけだったとしても使える人がいないんだ。1個が確実に使えるなら助かるだろう?」
と父親はそう言った。
プリシラは自分の好奇心を満たすためだけに、魔法を覚えようとしていたのだと改めて気が付いた。
人を助けるために1個ずつ、自分が使える魔法をしっかり覚えていけばいいんだと思ったら、急に元気が出てくるようだった。
本来、自分は悩むタイプではない。悩むより体を動かして、もがくタイプだ。訳の分かんない呪文だけど、真面目に覚えていこうとプリシラは思ったのだった。
6歳になり、貴族としての淑女教育も本格的に始まった。
プリシラには、もう一つ得意なものがあった。それはダンスだった。これも前世の影響が大きい。
なんせ母はフラメンコダンサーだったのだ。しかもプリシラは前世で母からもダンスの英才教育を受けていた。3歳からバレエを習い、母と一緒にフラメンコやタンゴ、父のバックダンサーからはタップダンスまで習った。
あの当時もお嬢様だったんだよなー。
パパラッチによく写真まで撮られていたっけ、そのせいで前世も護衛付きの外出は普通だった。
ハーフだったから可愛かったしな…。
いや今も、前世基準で見てもかなり可愛い。
母も父も美形だから、きっと美人になるはずだ。でも今世の人々の顔面偏差値は前世より全体的に高めだ。
むしろ自分は色的にも埋もれる方だ。でも前世、周囲がうるさい環境だったから目立たない今世は、逆に静かで良いと思っている。
前世は父の熱狂的なファンや、パパラッチにSNSなどで顔バレされて、見ず知らずの人に追いかけられもした。
今世は貴族令嬢だから狙われる事はあるかもしれないけど、父達と鍛錬もしてるし魔法もある。
自分で身を守る術を今世では身に付けることができて、今はとても充実している。
ダンスのレッスンは兄、姉とも一緒だ。
プリシラの音楽の先生である王宮の楽師の紹介で、何と王子殿下方と同じ先生に習っている。それもこれもプリシラが音楽にもダンスにも天才的な才能を見せているからだ。
ダンスの先生はプリシラを面白がって、色んな国のダンスまで教えてくれる。前世のルンバやサンバのようなステップもあれば、タップのように足捌きの激しいダンスもある。
さすがに前世と同じではないけど先生とクルクル踊り回るのは本当に楽しかった。
兄には見てるだけで目が回ると言われた。
6歳でこれだ。多分、今世も既に目立っている方だったのだろう。本人が気付いていないだけで。




