105
「やあ、伯爵、プリシラ、次女殿下の日記にまた新たな発見があったと聞いたけど?」
「小侯爵様、とりあえず読んでみて!小侯爵様が読まれたら、更に発見があるかもしれないから」
「伯爵、プリシラ、これが姉殿下の愚痴ノートよ」
聖女様に渡されたのは10冊くらいのノートの束だった。
「本当にノートなんだ!」
「そうなの。多分、このノートに気持ちを書く事で、殿下はかなりストレスを発散なさっていたようなの。だからほぼ走り書きが多いし、言葉も乱暴よ」
「分かりました。ありがとうございます」
私は父と一緒にノートを眺める。
「お父様はこれを読んだ事があったの?」
「ああ、一度な。大神官殿に「一度、読んでみると良い。君の先祖の悪口が多いが、色々、分かる事も多いぞ」と言われてな。その時に次女殿下の人となりに納得がいった」
「二人は仲の悪い姉妹だったの?」
「そうではないよ。お互いに役割を、きちんとわきまえてらっしゃったんだ。だけど、それでも不満も腹も立つ事はあるだろう?」
それはそうだ。プリシラがノートを開くと、反対側から声が聞こえてきた。
「わっ!何だこの文字は、丸いし変な記号を挟んでる!」
想像通りのリアクションだ。
だが、ぜひ読破を目指していただきたい!
姉殿下のノートはいきなり怒りの文から始まる。
「お母様があの子に聖女の杖を与えてから、コントロールが安定したのは良いけど、手当たり次第、魔法を撃ってるわ。一体どういうこと?!私ですらホーリーはまだ使えないのに…いきなりホーリーよ!しかも上級の回復魔法まで…私はこんなに苦労したのに…」
長女殿下は真面目に苦労した人なんだな。
確かに今まで魔法を使えなかった人が、急に凄い魔法を使い出したら腹立つだろう。
苦労をすっ飛ばしているし。
「私に代わって、あの子が討伐に出るようになったわ。当然よね?杖を授かったのだし。だけど心配だわ。特にホーリーよ。人や生物に被害を出さないかしら?この前だって私が止めなければ、麦畑を台無しにするところだったわ。あの子、草っ原だと思ってたって…とにかくホーリーは撃つなと言っておきましょう。あの子には常識が効かないし」
苦労が偲ばれる。当然の愚痴だと思われる。
その後も妹に対する心配と文句が交互に続く。そしてどんどん二人の役割も明確になっていく。
今の神殿のような仕事を姉殿下が、討伐はほぼ妹殿下が。
聖女が魔法を使えなくなっても、光属性の二人の姉妹が国を守っていく姿、それは二人の結婚で多少変化する。
だけどそれは、ほんのわずかな時期だけで、二人の子供達が直ぐに役割を受け継いでいく。
姉殿下の愚痴ノートは、王女として品行方正を貫く為に必要なストレスの吐け口だった。
でも何かヒントはないのか?
妹殿下のような魔法のヒント…でも彼女の日記と違って、コレは本来、人に見せるものではないノートだった。
だから、そういうのは書く訳がないか…上級の攻撃魔法は次女殿下も使ったという記録はない。
聖女は使ったの?だったらいつ?どこで何のために?
愚痴ノートの最後のページの文句は、母親の聖女に対してだ。
「聖女の杖を使っていたのは、あの子だったのに、何で私に?…酷いわ。だから後世には託さない。それが私の決断」
優等生だった長女殿下の最初で最後の反抗。
本来、母の聖女は杖を渡した次女の方に伝えるべき何かを、長女の方に伝えた。
きっと信頼していたのは長女の方だったのだ。
だけど、その気持ちを伝える時期がもう遅過ぎたのだ。
長女殿下の愚痴はすでに10冊に及んでいた。そのタイミングで聖女から最後に託された内容は、長女には刺さるどころか後世に伝えないという決断に至らせた。
一体、聖女から聞いた内容は何だったのだろう?
「お父様、この最後のページの後世には伝えないと決断した内容って何でしょう?」
「私も大神官殿に質問をしたよ。だが彼も先祖も全く分からないし、想像もつかなかったそうだ」
「長女殿下は、聖女の杖とセットで引き継がれるべき内容だと思われたようですよね?」
「そうだな〜。私がこれを読んだ時は、まだ伯爵家に聖女の杖があるなんて知らなかった時だったから、あまり深く考えなかったな。長女も杖を欲しかったのか?って思ったくらいだ」
真面目な努力家で優秀だった長女殿下は、聖女から杖を渡されたとしても、きっと杖には主人と認められなかったかもしれないと思う。
その事も、おかしいけど。




