102
重力魔法の魔法書は、最初に学ぶ魔法が“あのダンス”だったのはマジでウケたが、次に学ぶ魔法にも、いきなり吹き出しそうになった。
“ムーンウォーク”
重力を半減させ、まるで宙を浮く様に歩く魔法だ。
前世のビッグスターのマイケルのように、決してバックで進む歩き方ではないが、この世界の初級魔法のネーミングは絶対、どうかしている。
そもそも月が無いのに何でムーンウォークなんて命名?
ダメだ!きっと深く考えたら駄目なんだ。この世界はおかしな事ばかりなんだから。
そうだ王都に戻ったら大神殿で“姉殿下の愚痴ノート”を見せてもらう約束をした。だから、できれば妹殿下の日記も、事前に読破しておくべきだろうな…。
確か光の上級攻撃魔法の七大賢人に関しても、記述があると父が言っていた。恐らく聖女の杖があれば上級攻撃魔法も可能なはずなんだ。だから少しでもヒントがあるならイメージを作り出す助けになるだろう。
きっと7人、召喚する人を間違ってはいけないはずだ。
それにしても今後、ニコラ対策はどうして行くんだろう?第一王子殿下は屋根を王都中に作る訳ではないと仰っていたし、あの情報を広めるつもりも無さそうだ。
まあこれから陛下に報告して大神殿とも協議していくんだろうけどな。
シエラとステラとの蝕…その二つより遠い場所にあるから惑星同士の軌道が重なった時、ニコラは星の影になったはずだ。
なのに今でもシエラとステラが遠いと、肉眼で見たままを皆が信じていたのは、我々の国の天体に関する研究が遅れ過ぎていたからだ。
プリシラが馬車の中で色々と考え事をしている間も、目の前に座る第二王子殿下は一生懸命、魔法書とプリシラが昨日、作成したノートを交互に睨めっこしながら見ている。
魔法書の方は初級なので、これまで彼が練習していた実力があれば修得は直ぐだろう。
呪文も希少属性のわりには長くはなかった。
だからプリシラ作成のノートが重要だ。プリシラは重力属性を補助魔法でも使えるように「チョチョッ」と改造してやったのだ。
だが思い出した…新しい魔法は許可がいるんだったな。
また勢いでやっちまったぜ。
とりあえず今日中に第一王子殿下に伝えておこう。明日には王都に到着する。新学期も始まるまであと5日はあるから、ちょっとは屋敷でゆっくりしたいな〜。
「ああ、君がアーノルドに渡したノートか?最初のページは少し見たよ。何か問題があったか?」
「えっと実は…重力魔法で補助魔法を何個か作っちゃったから報告しておこうと思いまして」
「は?聞き間違えたか?君が重力魔法の補助魔法の呪文を作ったと聞こえたが?」
「聞き間違いではないですよ。光魔法の呪文を参考に作りました。隣国からもらった魔法書には、攻撃以外は自分自身に使う魔法しかなかったですから」
「‥‥ちなみにどんな魔法だ?」
「重力操作によるスピードアップとダウン。それと無重力を効果的に生かした物質の軽量化、その逆の圧力の方は初級の攻撃魔法にあったので割愛しています。第二王子殿下はすでにご自身の重力操作に関しては十分、自分のモノにしてらっしゃいますし」
「ちょっと待て!まずアーノルドの現状だ。彼はもう魔法による重力操作は呪文が無くとも自由自在に操れるのか?」
「はい、そうです。砦でずっと、私も付きっきりで練習したんですよ?もう物どころか、ご自身を浮かす事はお手のものです」
「自分を浮かす?」
「空を飛べるんだからスゴイですよね〜「私を浮かせてみて!」というところまで行ったのですが、そこで中断なので、それは入学後かなぁ」
「‥‥ブルーノ!真偽は?」
「令嬢は真実を述べられております。砦に滞在中は仲睦まじく、お二人で魔法練習に励んでおられました」
「その事実はどうでも良いが…ではアーノルドに学ばせる為に、君が作った補助魔法は3つか?」
「そう!でもスピード系だから人で検証しなくても、とりあえず馬とかで。軽量化の方は物にかけてみてから、持ってみればいいから人での検証は要らないはずです。成功すれば武器も軽くなるし、ピアノとか重い物も一人で軽々運べます!」
張り切って報告したのに、何か殿下の様子がおかしい。
「伯爵、君の娘は…何て言うか…」
「第一王子殿下、毎回、本当に申し訳ありません」
「何で?何でお父様が謝るの?!私は第二王子殿下の為に頑張ってるのに!」
「ああ…そうだったな。悪いのはこっちだ」
と言いつつも、殿下も父も大きな溜息を吐いている。
「気にしなくて良いのですよ。令嬢はそのままでいらして下さい」
侍従殿はニコニコと仰るけど、何か信用ならないよね?侍従殿のそういうところ。




