第七章:硝子の儀式と血の誓約
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父のカプセルが割れる音は、まるで死を告げる鐘のようだった。父の胸部から飛び出した有刺鉄線は、鋼鉄の触手のように蠢き、江戸の新鮮な肌を掴もうと手を伸ばす。
「江戸……お前の……目を……くれ……」装置から漏れ出るしわがれた声が呻く。
頭上では、赤目が江戸の脊椎を切り裂こうと爪を研ぎ、飛びかかる機を伺っていた。冥は出口を塞ぐように立ちはだかり、銀の短刀を手に一歩も通さない構えだ。
「逃げ場はないわ、江戸くん」冥は淡々と言い放った。「この村を支える礎として、運命を受け入れなさい」
江戸は震えていたが、その瞳にはもはや恐怖の色はなかった。彼は足元に散らばる鋭い硝子の破片を見つめていた。ホルマリンと、黒ずんだ如月の血にまみれた破片を。
(僕の体が欲しいなら……使い物にならないものをくれてやる)
「僕の体の一部が欲しいのか、赤目 ? 僕の神経が欲しいのか、冥 ?」江戸の叫びが、狭い空間に轟いた。
迷いはなかった。江戸は最も大きな硝子の破片をひっ掴むと、猛烈な速さと荒々しさで自らの左腿に突き立てた。そして、筋肉と血管を断ち切るように刃を抉り回した。
ガリッ……ッ!
「あ、ああああああッ!」江戸は悶絶した。鮮血が噴き出し、床を濡らす。
冥の目が大きく見開かれた。「江戸! 何をしてるの!? 神経をそんなに無茶苦茶に壊したら、装置には使えなくなるわよ!」
「それが狙いだ!」激痛の中で江戸は歪んだ笑みを浮かべた。彼は硝子の破片を引き抜くと、残った力を振り絞って、父の生命維持装置の制御パネルに叩きつけた。
ドォォォンッ!
火花が飛び散る。父の体内の有刺鉄線が制御を失い、狂ったように回転し始めた。カプセル内の薬品が噴出し、目を刺すようなガスの霧が立ち込める。
「父さん……ごめん……眠ってくれ!」江戸は実験台から奪い取った純粋アルコールの瓶を、その火花に向けてぶちまけた。
火が燃え移る。一瞬にして、古びた倉庫は地獄と化した。
火が乾いた青白い肌に触れると、赤目は狂ったように悲鳴を上げた。彼女は天井から転落し、熱から逃れようとパニック状態で這いずり回る。冥は火を消そうと飛び出したが、別のガラス瓶の爆発に巻き込まれ、壁へと吹き飛ばされた。
血に染まった足を引きずりながら、江戸は燃え盛る倉庫から這い出した。痛みは耐え難いものだったが、自由を感じていた。奴らが狙っていた「スペアパーツ」を、自らの手で壊してやったのだ。
しかし、出口に辿り着いた彼の目に飛び込んできたのは、彼を凍りつかせる光景だった。
姨捨村の住人たち――松明を手にした数十人の老人たちが、円を描いて立っていたのだ。その中心には、狐の面を被った一人の老婆がいた。
「如月の継承者が、自らを損なったか」老婆の声が冷酷に響き渡る。「ドナーになれぬというのなら……呪いの器となるが良い」
江戸は冷たい地面に崩れ落ちた。背後では倉庫が激しく爆発し、父の秘密を灰へと変えていった。




