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第五章:古き祠の底のインキュベーター

#R15 #残酷な描写あり #都市伝説 #ホラー #村ホラー #サイコホラー #復讐 #ダークファンタジー #ヤンデレ #テケテケ

江戸の手のひらの痛みは、もはや単なる疼きではなかった。それは地の底から何かを呼び覚ますような、重苦しい鼓動へと変わっていた。テケテケである赤目は、恍惚とした表情で目を閉じ、まるで神の蜜でも啜るかのように彼の傷口を舐め続けていた。


「もういいわ、赤目ちゃん。今全部使い切らないで」冥が冷酷な声で命じた。


赤目は威嚇するように唸ったが、大人しく従った。彼女は這いずりながら遠ざかり、低いテケテケという音と共に刺草の茂みの中へと消えていった。江戸は、虚脱感に襲われながら冥の腕の中に崩れ落ちた。


「なぜ……なぜ、僕の血なんだ?」江戸はしわがれた声で問いかけた。


冥は言葉では答えなかった。彼女は霧の中を突き進むように江戸を無理やり引きずった。壊れた壁飾りのように無残に吊るされた朱莉の死体を通り過ぎ、彼らは苔に覆われた木造建築へと辿り着いた――それは巨大な樹の根に隠された、姨捨村の端にある地下倉庫だった。


冥が朽ちかけた木の扉を蹴り開けると、中から漂ってきたのは腐臭ではなく、ホルマリンと線香が混じり合った奇妙な臭いだった。


「あなたの遺産を見て、江戸くん」冥は江戸を中へと突き飛ばした。


倉庫の中で、江戸は崩れるように座り込んだ。目の前には、濁った液体で満たされた数十本もの巨大なガラス瓶が並んでいた。それぞれの瓶の中には、人間の体の一部――足、腕、そして頭部までもが収められており、筋肉が時折ぴくりと動くその様は、まるで「生きている」かのようだった。


江戸は這いずりながら、「如月 - 1998年ロット」と古い紙のラベルが貼られた一本の瓶に近づいた。


その中には、数千本の細い有刺鉄線に繋がれた心臓が、今も静かに鼓動を刻んでいた。しかし、江戸の心臓を凍りつかせたのは、瓶の側面に貼られた一枚の写真だった。それは、まだ若かりし頃の江戸の父親の写真だった。


「父さん……?」江戸は絶句した。「父さんは十年前の事故で死んだはずだ!」


「事故? いいえ、江戸くん」冥は彼の隣にしゃがみ込み、ガラス瓶を愛おしそうに指でなぞった。「如月家の人間に、本当の死なんてないのよ。彼らは森の守護者たちのエネルギー源として、この村に『寄付』されたの。赤目ちゃんが下半身を失くしても動けるのは、この地下で生き続けるあなたの家族の臓器から供給を受けているからなのよ」


冥は江戸の制服の襟を掴み、部屋の奥を見つめさせた。そこには、子宮の形を模した有刺鉄線に囲まれた、古い木製の椅子が置かれていた。


「十年に一度、如月の継承者はここへ戻り、村を『再充填』しなければならない。バスが故障したのも、私があなたをここへ連れてきたのも、それが理由よ。赤目ちゃんはあなたを憎んでるんじゃない……新しい臓器に飢えているの。あなたの『下半身』を待ち焦がれているのよ、江戸くん」


江戸は激しく震えた。彼は、さらに残酷な真実に気づいてしまった。神薙冥は単なるシャーマンではない。如月という名の羊を、屠殺場へと追い込む「飼育員ブリーダー」なのだ。


「じゃあ……この修学旅行は……」


「あなたの帰郷の儀式よ」冥は、江戸がこれまでに見た中で最も甘く、そして最も致命的な微笑みを浮かべて、彼の言葉を遮った。


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