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第四章:血の継承者の拒絶

#R15 #残酷な描写あり #都市伝説 #ホラー #村ホラー #サイコホラー #復讐 #ダークファンタジー #ヤンデレ #テケテケ

朱莉の血が江戸の頬に飛び散った。熱く、生臭い。木の上から聞こえる骨の砕ける音と弱々しい呻き声が、江戸の脳内で何かを呼び覚ました。長年眠っていた自己防衛の回路が、音を立てて繋がったのだ。


「やめろ! 冥、やめてくれ!」江戸は声を枯らして叫んだ。


彼は肩を突き出し、冥の冷たい手を振り払った。初めて、彼は愛した少女を恋慕の情ではなく、恐怖の眼差しで見つめた。「これはダンスなんかじゃない! 殺人だ! 赤目はもう死んでいるんだ、それなのに彼女に何をした……朱莉に何をしてるんだ……狂ってる!」


冥は彫像のように立ち尽くしていた。その無表情な顔がわずかに震えたのは、恐怖からではなく、失望からだった。「狂ってる? 江戸くん、自分の家族の伝統に対して、ずいぶん乱暴な言葉を使うのね」


「家族なんて知るか! 僕は、この村のことなんて何も知らないんだ!」江戸は後ずさりした。足が激しく震えている。「朱莉を降ろして、ここから逃げるんだ。助けを呼びに行く!」


冥は小さく笑った。その声は美しく、それでいて、長く打ち捨てられた寺の鈴のように虚ろだった。「どこへ逃げるの? この森はあなたの母親の腹の中なのよ、江戸くん。あなたは今、再び彼女の子宮に戻ってきたの」


江戸は聞く耳を持たなかった。彼は前方へ飛び出し、ぐったりと垂れ下がった朱莉の足に絡みつく有刺鉄線を掴もうとした。しかし、指が錆びた金属に触れる直前、黒い爪を持つ青白い手が、彼の手首をひっ掴んだ。


ズサァッ!


赤目だ。テケテケは人間離れした速さで幹を這い降りてきた。彼女の顔は今、江戸の顔からわずか数センチの距離にあった。死体の腐臭と、奇妙なジャスミンの香りが江戸の鼻を突いた。


「江戸くん……行かない……で……」赤目がささやいた。その声は、木を紙やすりで擦るような不快な響きだった。「あなたの血……匂いが……この鉄線と……同じ……」


「離せ!」江戸は赤目の手を叩いたが、それは硬い氷の塊を叩いているかのようだった。


江戸は冥の方を向き、懇願した。「冥、お願いだ……もし本当に僕を愛しているなら、彼女を止めてくれ!」


冥はゆっくりと歩み寄ってきた。彼女は制服のポケットに手を入れると、複雑な彫刻が施された骨の柄を持つ小さな短刀を取り出した――神薙家の紋章だ。彼女は江戸の自由な方の手を掴むと、迅速かつ正確な動きでその手のひらを切り裂いた。


「あ、ああッ!」江戸は苦痛に顔を歪めた。手のひらから鮮血が溢れ出した。


冥は傷の手当をしようとはしなかった。それどころか、血にまみれた江戸の手のひらを、赤目の開いた口へと向けた。テケテケは貪欲にその血を啜り、赤い瞳を歓喜に輝かせた。


「見て、江戸くん」冥は背後から江戸を抱きしめ、逃げられないようにその体を固定してささやいた。「彼女はあなたを殺したくないの。ただ、あるじが恋しいだけ。如月の血だけが、彼女の腰の『縫い目』の痛みを取り除ける唯一のものなのよ」


冥は冷や汗の流れる江戸の首筋に口づけをした。「抗おうとしても、あなたの体から流れ出る血の一滴一滴が、この呪いを強めてしまう。あなたは彼らを救うヒーローじゃないのよ、江戸くん。あなたはこの怪物を生かし続けるための『餌』なの」


頭上で、朱莉の体が動きを止めた。森は再び静寂に包まれ、江戸の手の傷口を啜る赤目の舌の音だけが響いていた。


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