助っ人
あれから3週間、ベルガミーニに関する進展はなかった。度々連絡をくれるロレンツォから、ベルガミーニの連絡が来たのは、つい昨日のことだ。
それにも詳しい事はかかれておらず、ベルガミーニが動き始めたこと等、わずかな報告。それから、救援要請に対する回答だった。「オレ達が行きたいから、ボスに聞いておいてくれ」だったらしい。知らない人にボス扱いされて、本当に、私が継ぐんだ、という事を実感した。でも、本当にそれくらいしかなく、詳しい報告は来日後に直接話すという事だった。
しかし、会長に任せた『プレフェリート』については、ものすごく進展した。
会長は、思い立ったが吉日とばかりに、翌日には完璧なプレゼンをし、その翌日にはレポートを作成、提出してきた。また、質問にはすぐに対応し、補足を入れてくれたため、会長のまとめた提案に反対する人は居ず(反対のしようがなかった)、すぐに決定した。そして、予算の都合上、リディオやアロンツォと詳しく話し合った結果、商品が店頭に並ぶのは、今週中の予定だ。
ベルガミーニの件が落ち着いていたため、できる間にやってしまおうという考えがあったことに間違いはないが、ここまで対応が早いのもすごいと思う。
「予算や行事実行のための話し合いやプレゼンには慣れているので」と言ってはいたが、生徒会長になれる人とは、みんなそんなものなのだろうか。正直、少し引いた。
箇条書きで綴られたノートから顔を上げ、向かいに座る陽太を見る。割と広い、ビルの3階――つまり、私たちのアジトに、静かな時計の音が響く。
今日は珍しく、陽太と二人きりだ。リディオも夏紀もいない。
陽太のノートには、たくさんのイタリア語の単語が並んでいた。
「結構、面白いよな」
私の視線に気がついたらしく、陽太が話しかけてきた。
「基本的にローマ字読みに近いから、英語より楽かもな。混じって覚えることも少ないし」
確かに。でも、実際の文法は、男女の区別があったりなど、かなり面倒。それはまだ言わないでおいてあげよう。いつかたどり着く壁だ。
「……そうだね。余裕ができたら、他の国の言葉も調べてみたいな。特に、ヨーロッパの国の言葉には共通点も多いと思うんだ。植民地とか独立とかで、周辺国の影響を受けてる国は多いと思うんだよね。国旗が似ていたりするのもそういう影響があるんだと思うし……」
話しているうちに、だんだんと独り言モードになってきていたらしい。少し下がっていた視線を元に戻すと、陽太の、いつも通りのニコニコ顔があった。
「さすが、真希だよな。また、あと1週間もすれば徹底的に調べてくるんだろ?」
「余裕があれば、って言ったでしょ。私も、今はイタリア語で手一杯だよ。それに、別に、覚えるのが早いわけじゃないし、今回はそれだけに時間を割けるわけじゃないから」
「うんうん。でも、そんなこと言って、気になったことは、絶対、気が済むまで徹底的に調べるのが真希だよな」
陽太とも長い付き合いだから、この言葉が、私を咎めているわけではないことはよくわかる。でも、褒められているのかは分かりかねるから、黙っておく。
「それより、今日は、イタリアから来るんだろ? 例の、リディオのメル友」
「メル友っていうか、リディオ曰く『兄弟でライバル』らしいけどね。今、リディオが迎えに行ってるよ」
「夏紀は、今日はこれないって言ってたし、会長は会議か……。じゃあ、オレ達しか会えないんだな」
「そうだね」
アロンツォも、情報収集で出かけると言っていたことを思いだした。最近は多いけれど、何をやっているんだろうか。
「楽しみだな。同じ歳らしいけど、マフィアらしいのが来るのかな?」
「マフィアらしいってなに……?」
控えめなツッコミに、陽太は、しばらく考えた後、はははっと笑った。
「よくわかんね」
やっぱり、ツッコミの勉強もするべきだろうか。夏紀かリディオがいてくれないと困る。
「おつかれ」
リディオが入ってきた。という事は、「ロレンツォ」と「カルロ」も来ているのだろう。私は、お茶を入れようかと迷ったが、紹介があるかもしれないと思い、座りなおして答えた。
「おかえり」
「うす」
片手をあげて陽太も答える。
「早速だけど紹介するよ。本部から来てくれた、ファミリーだ」
そう言って、目配せするリディオ。それを受け、リディオの隣の、若干背の低い少年が一歩前に出た。
「はじめまして。ロレンツォ・バルディと言います。よろしくお願いします」
そして、私の前に来て、跪いた。
「はじめまして、ボス。」
「ちょっと待って! え、え~と……。か、顔を上げてください」
急なことに、混乱してしまった。落ち着くために、深呼吸をする。
「普通にしてて、いいからね?」
「……そうですか。お心遣いありがとうございます」
「……」
なんだか、背中がむずむずする。慣れない。やりづらい。
黙ってしまった私を見て、細く息を吐く、もうひとりの少年。元々細い目を閉じてしまった。もしかしたら、さっきのは、ため息なのかもしれなかった。
「カルロ・デンテッラです。よろしくお願いします」
「あ、うん、よろしくお願いします」
「うす」
カルロは、まるでうなずくかのように、ゆっくりと瞬きをした。その横で、立ち上がってからもそわそわしていたロレンツォがビクッと跳ねた。
どうしていいか分からない私。陽太を見ても、普段通りニコニコしているだけだ。多分、私と一緒で、理由を分かっていない。次にリディオを見ると、ちょうど、リディオが吹き出した。
「ボス。ボスにいきなり敬語なんて使われたら、普通は驚きますよ」
「あぁ、そういうことか。でも、カルロも動じてねーみたいだぜ」
陽太も納得したから、やっぱり分かっていなかったらしい。陽太の指摘に対して、リディオが苦笑した。
「あー、ロレンツォが大げさなのもあるけど、カルロは例外だよ。どうせ、ロレンツォがほぼ無理矢理連れてきたんだろ?」
「うっさい。ちゃんと返事したし」
リディオがからかうようにしてロレンツォを見る。それに対する答えを聞き、さらにカルロを見る。カルロは、リディオと目が合うと、ほんの少し視線をそらした。
「別に」
「ボスが同じ歳だって聞いて、興味津々だったくせに。それに、リディオからのメール、割と楽しみにしてたじゃん」
「うるさいな」
照れてるのか。私が言うのもなんだけど、リアクションに欠けるというか。表情の変化が乏しいというよりは、あえてそうしているようだ。強がり、というのだろうか。
「……まあ、こんな感じですけど、よろしくお願いします」
リディオが締めて、私の方を見る。
「さ、ボス、報告聞いちゃいましょう」
「あ、そうだね。とりあえず、空いてる席に座って。今日は欠員が多いから」
「はい」
緊張で縮こまった返事をしてくれるロレンツォと、無言で座るカルロ。
……なんだかとても、やりづらい。




