『プレフェリート』の経営方針
「みんなそろったから、ちょっと聞いて欲しいんだけど。クイントが亡くなったらしいんだ」
「それ、ほんとか? 早すぎなんじゃないか?」
私の報告に、珍しく、陽太が意見した。確かに、初めは、長くて3ヶ月という話だった。1ヶ月以内に幹部を集めろと言われたが、まだ1ヶ月経っていない。6月に入ったとはいえ、あと一週間はある。早いのかもしれない。
「でも、情報源が確かなんだよ」
「ああ。ずっと一緒にやってきたんだ。信用はできる。ただ、この話は公式に公開はされていないんだ。そのうち、正式な文書で任命書が届くはずだ」
リディオの補足説明に、さらに補足を足す。
「まぁ、それは、ベルガミーニの話が落ち着くまで来ないように頼んであるんだけどね」
「ふーん、そうなのか」
曖昧に理解する陽太。
「それもそうなんだけど、今、連絡をくれたロレンツォに、噂を流してもらうように頼んでるんだ」
すると、急に背筋が伸びる会長。
「どうですか?」
「まだ、どうとも言えないですよ。でも、些細な事でも報告してもらうことにしたから、すぐに分かるとは思います」
これには苦笑するしかないが、気になるのも分かる。なにしろ、自分で提案した作戦なのだから。
「そうですか」
ほっ、と、表情を緩める会長。どうでもいいが、学校社会において、先輩に敬語を使われる人は少ないんじゃないだろうか。敬語どうしのやりとりって、落ち着かなくて嫌いだ。だからといって、先輩にタメ口はもっと落ち着かなくて嫌だけれど。
「で、作戦と並行して、やりたいことがあるんだ。少しこれを見て」
ソファーの上で聞いていた夏紀も、テーブルに集まり、紙を見る。
「なにこれ。文房具?」
「うん。多く買ったときの値段の比較。下のお店で出そうと思って」
全員に、初耳、という目で見られる。誰にも言っていないのだから、当たり前だけれど。
「下のお店って、なんて言うんだっけ?」
「preferitoだ。イタリア語で『お気に入り』という意味がある」
リディオが、夏紀に答える。最近は説明係にまわることが多い気がするが、あえて突っ込まないでおこう。
「話を元に戻すよ。今は小物だけ販売しているけど、それじゃあ、収入は安定しないんだよ。今の売上はこんな感じ。ギリギリ黒字だけど、私の最終目標は、『ヴェルデの日本支部の出費はすべてお店で稼ぐ』ことだから、全然足りないの」
リディオに印刷してもらった、売上金額と出費の差、つまり、最終的に儲かる金額をまとめた書類を見せながら、話す。みんなは、真剣に聞いてくれている。
「そこで、文房具を販売するという対策を考えたの。利点は、文房具なら、食品と違い、長期間の保存が可能なこと。少数から購入、販売できること。この辺りの通行が多い、学生や社会人想をターゲットにできること。消耗品のため、リピーターを増やせること。売り場スペースが少なくて済むこと。そして、以上の点から、リスクが少ないこと」
「なるほど。確かに、リスクが少ない上に、上手くいけば、今より儲けることができますね」
アロンツォが同意したことで、私は少し安心する。ひとりで考えていたことを、相談なしに提案したため、正直不安だったのだ。
「ただ、リスクが少ないとはいえ、文房具の仕入れにもお金がかかるし、商品管理も大変になると思う。だから、みんなの意見が聞きたかったんだけど……」
幹部組は、すぐに賛成してくれた。アロンツォも、「リスクも少なめだし、やってみればいいと思います」と前向きだ。
橘さんは、全員の賛成がとれたあと、少し考えて、提案してきた。
「今まで、『プレフェリート』の経営方針は、『イタリア風小物』でしたよね? ターゲットを学生や社会人に絞ると、文房具は機能性重視、という方も多いと思います。なので、見た目重視のものと、有名メーカーのもの、両方を仕入れることを提案します」
そこで、一旦切ると、いつの間にか書記係になっている夏紀が持っていたノートを、夏紀にことわって借り、シャーペンを走らせる。
「今、店内の配置はどうなっていますか?」
よくお店に出入りしているアロンツォにノートを向け、簡単な図を書いてもらう。
「今おいてある小物商品を半分にして、空いた半分を、文房具スペースとします。それをさらに半分に分け、『イタリア風』と『機能重視』に分けます。種類は、どちらも、よく使われる筆記具類や、ノート、ファイルなどに絞り、売れ行きによって商品数や種類の増減をすると良いと思います……」
珍しく多く提案、発言し、場を仕切る会長。割り振りが的確で、私よりもボスに向いていると思う。それに何より、説明が簡潔でわかりやすく、的確だ。さすがは生徒会長。手際が良すぎる。そして、私がこうして考えている間も、会長は、的確な提案をまとめていく。
「と、こうすると良いと思うのですが」
会長が説明を締めくくると、自然と拍手が生まれた。
会長が、照れて、赤くなった。もうすっかりなじんでくれているのが嬉しい。敬語は抜けなくても、無駄に謝ることが減った。
「会長、『プレフェリート』の経営、お願いできませんか? ……押しつけるみたいで申し訳ないんですけど。でも、会長が一番適任だと思います」
「え?」
「元々、みんなに、それぞれ、仕事を割り振る予定だったんです。もう少し、私自身が慣れてからにしようと思ってたんですけど、会長にお願いしたいです」
会長は、少し視線を彷徨わせたあと、照れて赤い顔のまま、言った。
「私で良ければ」
よし!
「よろしくお願いします! では、この件は、会長の考えで進めてみてください。あ、実行する前に、みんなで会議しましょうね。会長のプレゼン、とても聞きやすかったですし」
私が『ボスモード』のスイッチを切ると、みんなも盛り上がって会長を囲む。
私の目指す仲間の形に、近づいてきている気がした。
――本物のファミリーのように、なれてきた気がした。
preferito (プレフェリート) 単純に「好きなもの(人)」を表すようです。




