イタリアのファミリー
「やっほー、真希」
隠し部屋になっている基地に入るなり、ソファーに、かなり偉そうに寝転んでる真希に手を振りかえす。
「やっほー、夏紀。陽太は?」
「本屋寄ってくるってさ。辞書買うんだって」
……辞書?
「イタリア語だろ?」
背後からリディオの声。何か知ってそうだ。黙って続きを聞いてみる。夏紀が、この前から持ちっぱなしの拳銃のハンマーを、あげたり戻したりしながら答えた。カチ、カチと不規則に音が響いている。
危ないな。そう思いつつ私が見ていると、夏紀が気づいて、底を見せてきた。弾は入っていなかった。
「そうだと思うよ」
「イタリア語?」
リディオを見る。
「陽太に見られたんですよ。俺が書類の整理してるとき、こんなにたくさんやるのか、って」
「なるほど、私が心配するまでもなかったって事か」
私が思うより、まとまっていたようだ。
「会長は生徒会があるから遅くなるってさ」
リディオが、パソコンを立ち上げながら、夏紀に言う。
「結局、会長に落ち着いたんだ? 呼び方」
どんどん話がずれていくが、会話が絶えないのはありがたいし、いいことだと思う。
「はい、ボス。今朝届いたメールです。……正式な文書は、後ほど届くと思いますけど」
そこには、確かにイタリア語の文書があった。メールなので、筆記体の文書よりも読みやすい。
「……情報源は確かなの?」
「俺が保証します。向こうのファミリーですよ。俺の次に出世が早いです。兄弟みたいなんですけど、ライバルです」
なるほど。リディオと同じように、親の代からファミリーなのか。子供の頃から将来を決められるって、かなり厳しいと思う。人のことは言えないけれど。
それより、早くやってもらいたいことがある。本部の遠隔操作は難しいと思っていたけど、そういう子がいてくれるなら、できることはぐんと増える。
「リディオ、至急、この子を介して、本部に連絡を」
「いいですけど……」
リディオの顔に、緊張が走る。
「ベルガミーニの情報を、本部から探って欲しい。できるだけ秘密裏に。ベルガミーニに繋がる情報は、なるべく多く。関連ファミリーのこともできるだけ調べてくれたら嬉しい。それから、すべての情報は、一切カットせずに日本に連絡すること。……あと、クイントが亡くなったってことは、まだ外に漏らさないで」
「なぜ、発表してはいけないんです?」
リディオのこの目、絶対分かってて聞いてる。
「私たちが動きづらくなったら困るから。折角、向こうが、まだ父さんを次期ボスだと思ってるんだよ? わざわざ私たちの行動を制限する必要なんてないよ。それに、本部を本部としてここから動かすには、それが一番手っ取り早い。せめて、ベルガミーニに仕返しするまでは……」
リディオに向けて、ニッと笑う。
「でしょ?」
リディオも、ため息をついた。
「完敗です。そう伝えておきます」
「あ、リディオ。もう一つ……」
「なんですか?」
リディオのサブバッグを指さして、言う。
「リディオと同じ拳銃、――ベレッタM29Fを、4丁。あるいは、アロンツォさんの分も。なるはやで」
夏紀が反応した。
「マイ銃?」
「そう。――おそろい」
おそろいなんて、小学校以来だ。少しくすぐったいけど、嬉しい。
仲間がいるって、いいな。
「了解、ボス」
リディオが、ノートパソコンを自分の方に向け、メールソフトを立ち上げる。
「それにしても」
見事なブラインドタッチでメールを作成しつつ、私に問いかけた。
「拳銃まで調べ上げるとは。流石です」
「ベレッタはすぐ出てきたよ。アメリカ軍でも使われてるらしいし。今夏紀が持っているのは、旧型のベレッタM1951でしょ?」
相変わらず、旧式のベレッタM1951で遊びつつ、夏紀も参戦してくる。
「イタリア関係ないじゃん」
「作ってる“ベレッタ社”がイタリア」
「なるほど」
私が言う前に、リディオが答えた。流石に知っているらしい。
「でもボス、今は少し我慢して、次の軍採用モデルを買った方が良くないですか? まぁ、次はベレッタ社じゃないらしいですが……」
私は、別にそれでもいいと思ったのだ。その情報も、ベレッタM29Fを調べたときに出てきた。でも、いくつかの理由から、却下にしたのだった。
「ひとつは、リディオが持ってるそのベレッタ。それ、かなりいじってあるでしょ。正規の形とは全然違うもん。あと、予算も。こっちに書類が回されてない以上なんとも言えないけど、できるだけ節約したいんだ」
リディオがため息をついた。
……何か変なことを言ったかな?
「ボス、予算の心配なんて――」
「そりゃあ、私たちが贅沢できるくらいの資金はあると思うよ。でも、無駄遣いは好きじゃないし。最終的には、日本基地の経営は、雑貨店の売り上げだけでやりくりしたいと思ってるしね。今は無理だろうけど」
雑貨店の売り上げはひどいものだ。ギリギリ黒字だが、気を抜いたら即終了、そんな気がするほどに危うい。どうにかして、売り上げを伸ばしたいな。
どうするかを考えるうち、私の頭脳の回転は速くなっていく。
そして、その回転は、唐突に遮られた。
「こんちは~」
「遅くなりました」
陽太と会長が来たようだ。
幹部全員がそろったところで、話し合いが始まる。
……まぁいいや。今日、その話もしてみよう。私は、アイディアを整理しきれないまま、一旦考えることを止めた。
カクヨムにて、BOSS!!をまとめ直し始めました。
良ければご覧ください。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884721624




