リディオの“風間”な日常
「おはよう、風間くん」
「おはよう、小金井」
本日一番の挨拶。ボスに向かってタメ口なんて、本来だったら撃ち殺されても文句は言えない。しかし、ファミリーの情報を外に漏らすこともできないので、学校ではタメ口が義務づけられている。
それ以外にも、ボスは、格差がつくのを嫌がる。敵ファミリーの下っ端を救いたいとヴェルデに入れるし、ものすごい演技力を見せておきながら、「嘘はいけない」なんて言っている。ボスとしては、かなり特異な人だ。
俺が、“日本の中学生”として生活し始めてから早二週間。ベルガミーニファミリーの襲撃後は、情報集めが主になっている。学校は、貴重な情報収集の場だ。とはいえ、俺の任務の最優先は、ボスの護衛だけど。
「ねぇ、風間くん、昨日の歌番組、見た?」
「あ、その話なら私も混ぜて」
彼女らに他意があるのかは不明だが、多分、友達として接してくれているのだろう。しかし、こうも人数が増えると面倒だ。2、3人ならまだしも、5人は多くないか? それに、こんなに女子が集まっていると……。
がた、と音がして、ボスが立ち上がる。また図書室だな。朝のホームルームまでは、まだ20分ある。ボスは時間に忠実だから、それまでには帰ってくるだろう。――でも、面倒だな。
「悪い、ちょっと行ってくる」
目を光らせる女子もいるため、まずはお手洗いへ。男子トイレなら、女子もついてこられない。様子をうかがいつつ、また、トイレにいる男子に不審に思われないようにしつつ、さっさと、図書室へ。もっとしつこい日は、一旦図書室とは反対の方へ行き、そこでも女子を上手くまいて図書室へいく。面倒だけど、ボスの邪魔をしに行くわけではないのだから、やっかい事の種は持ち込みたくない。
「珍しい、本読んでないんだ」
「風間くん。……誰もいないから、落書き程度に練習してた」
小さなメモ帳にシャーペンで書いたであろう、何本もの複雑な線。丁寧に書かれたそれは、1つの模様に、――ヴェルデの紋章になっていた。
もう覚えたのか。さすがはボス。
「そういえば、リディオが教えてくれた、この……紋章? の秘密なんだけど」
初日のあれか。
「あれ、嘘でしょ」
「……ばれてたんですか」
「まあ」
そんな、「別に何でもない」みたいな表情で言われると、少し落ち込む。
俺は、生まれたときからヴェルデの一員だった。親が両方ヴェルデに所属していたからだ。しかし、今でこそ一人前の仕事を任されてはいるが、子供だった頃は、力仕事や戦闘には使ってもらえない。そのため、逆に子供という立場を利用して、情報集めや、いわゆる“スパイ”なんかをやっていた。確かに、セスト幹部の指令をもらってからは、書類仕事もこなしたり、戦闘経験も積んではいるが、長らくしていた仕事のうでは鈍ってはいないはず。
あっさりと見破られたのは、かなり落ち込む。それと同時に、ものすごく驚いた。今まではそれで通用していたからだ。
「元々とっておいたんでしょ? 私に拳銃を見せたのも含めて、私をヴェルデに入れようとするための餌と脅し」
「……その通りだ」
ボスは、メモ帳に目線を向けた。普段、人の目を見て話をするボスにしては珍しい。
「私、楽しいよ。ヴェルデに入って良かった」
「それはなにより……」
「でもね」
俺の話を切る。これも珍しい。
「ちょっとは信用して欲しいかな。いや、信頼、かも」
「うん?」
「とっくに、日本支部の経営はこっちに回されてると思うんだけど?」
お見通しか……。
「それもそうなんだけど、こっちでの処理が追いついてないんだ。今日の朝知ったんだけど、――クイントが、亡くなった」
「……」
固まってしまったボスに、一応言い訳。
「ちなみに、書類は翻訳中」
「それなら、もう大丈夫ですけど?」
ショックからのがれ切れていないボスが、じとっとした目で睨んできた。
「……そんなこと言われても、直接まわせる書類と、下で処理する書類があるんだから。まだ、陽太や夏紀はイタリア語が読めないんだ」
「むぅ」
一応は納得してくれたかな? そう思いつつ時計を見て、慌てて立ち上がる。
「小金井、時計」
「あ」
ダッシュ。廊下を走っちゃいけないとか、そんなことは気にしていられない。
“間に合ったのは良かったけど”
小金井のノートに綴られていくイタリア語は、見事な筆記体を描いていた。相変わらず、すごい学習能力だ。
“普通、クイントの死亡告知って、私のところに来るんじゃないの?”
俺のノートにも、すっかり見慣れたイタリア語が並ぶ。
“基地の方には来てると思いますよ。俺が受け取ったのは、アロンツォからのメールだったんです”
ボスは、何やら考えているようで、それ以降何も書かなくなった。
1時間目は数学で、ボスは、難なく答えた。また何やら言いたそうなのがいたが、俺が睨んでやった。
2時間目が始まった頃、やっとボスのノートにイタリア語が並んだ。
“本部は、もう私が動かせるの?”
俺が頷くと、ボスの表情が少し晴れた。
きっと、俺の想像のつかないような事を、大量に考えているんだろう。
心なしか楽しそうだ。それを読み取れるようになるほど、俺が、ボスに慣れたのかもしれないが。
――でも、そんな状態でも、難なく答えられるのは、ボスのすごいところだと思う。
テストがあり、更新遅くなりました……
次からは週一投稿に戻せると思います。




