対照的な2人
言葉少なで、堂々としていて、頑固そうに見えるカルロ。対照的に、常にこちらを気にし、顔色をうかがうロレンツォ。二人して目の前に座る。
空いている席の関係で必然的にそうなるのだが、正直目をそらしたい。二人して、そんなにこっちを見ないで欲しい。カルロのガン見も嫌だが、ロレンツォのチラ見も嫌だ。リディオも、二人と私を交互に見てニヨニヨするのを止めて欲しい。いつもニコニコの陽太を見習ってくれ。
「報告って言っても、することないんだよね。リディオが定期的に連絡してくれてるみたいだし」
「全員そろってないしな」
少し残念そうに、陽太が答えた。陽太も緊張しているんだという事を初めて知る。声のトーンが少し高かった。
「じゃあ、もう、自己紹介でいいや。アロンツォさんから」
「はい!」
クラスメートがレポートの発表をする時のように、表情がかたい。キリッとすると、いかにも外国風な端整な顔立ちが目立つ。ウインクが似合いそうだ。
「改めまして、ロレンツォ・バルディ、14歳。祖父の代からファミリーです。誠心誠意ボスに尽くす所存ですので……」
「ぶはっ」
リディオがついに吹き出した。
「悪い、続けてくれ」
さっきから震えていたのを気にしていたのだが、やはりこらえきれなかったらしい。仲がいいのは見ていて分かるが……、自己紹介中に吹き出すのは、本人たち的にOKなのだろうか?
しかし、かなり無理矢理だが、背中がむずむずする自己紹介は途切れた。こちらからの質問に切り替えてもいいだろうか。
「趣味とかは、ある?」
「……趣味、ですか?」
聞かれたことが心外だったのか、きょとんとしている。が、自己紹介で、これを聞かずしてどうする。
「うん。何でもいいよ。日本語が上手だけど、日本文化に興味があったりする?」
「ええと、ヴェルデファミリーは日本とつながりがありますから、日本文化には詳しい人が多いです。自分は、特に漫画が好きです。日本食にも憧れますが、漬物は、あまり……」
「なるほど。私も、漬物苦手なんだよね。たくあんなら好きだけど。漫画も好きだよ。何が好き? よく読むのとかはある?」
「面白そうだと思った物はできるだけ買っていますが、どれも面白いです。最近のものも好きですが、少し昔の漫画は、また違った面白さがあります。特に、これといってひとつをあげることはできませんが、題名が出てくれば、何かしら反応できる自信があります」
少し、緊張が解けてきたかもしれない。漫画の話題は当たりだ。
「すげっ。漫画は結構読むけど、そんなに詳しくないや」
陽太がいうと、リディオも頷いた。
「でも、なぜか1作品にどっぷりはまることは少ないんだよな……。あ、漫画といえば、カルロもよく読んでるよな」
リディオに話を振られて初めて、会話に参加するカルロ。
「ロレンツォ程ではないですけど」
ちょっと意外だ。
「やっぱり、みんな漫画好きなんだね」
私のつぶやきに、敬語で答えるカルロ。
「元々読書が好きなので、その一環として読みます。単なる暇つぶしに読むことも多いです」
なるほど。読書好きのイメージはぴったりだ。
「真希、先にカルロの自己紹介聞かなくていいのか?」
「あっ、ごめんね。どうぞ」
陽太に言われ、改めてカルロに向き直る。
「……カルロ・デンテッラ、14歳。ロレンツォと同じように、祖父の代からファミリーです」
至って簡潔な自己紹介。自己紹介に関して言えば、しゃべってくれるロレンツォの方がありがたい。気の許せる友達とのみいることが多かった私には、こういう気の回し方が苦手なのである。
黙ってしまった私を見てか、リディオが助け船を出してくれる。
「カルロは、理数系なのに機械が苦手だよな」
「えっ、それは意外……」
言ってしまって、しまったと口をつぐむ。向かいに座るカルロが、こっちをガン見していたからだ。……怖い怖い、そんなに見ないで! 見た目で判断してすみませんでした!
「えと、ごめんね」
「……なんで謝るんですか」
予想外の返事が返ってきた。
「ほら、ボスに何やってんだ」
ロレンツォがカルロにデコピンをくらわせる。そして、注意をしている。いままで、私の邪魔をするまいと何もしなかったようだが、これはまずいと判断したのだろうか。ロレンツォを見ていれば普通のマフィアが分かるかもしれない。彼が行きすぎなのではなくて、私がラフすぎるのかもしれない。
……でも、直すつもりはこれっぽっちもないけどね。自分で宣言したとはいえ、やっぱりあれは強引だよ。ちょっとは私の好きにしてもいいんじゃないかな?
そう考え、自分の考えの変化に気づく。私、少し慣れてきているかも。仲間意識、というやつだろうか。
「別に怒ってるわけじゃないです」
はっ。カルロの声で意識が戻る。また勝手に思考の沼に沈んで行きかけていたようだ。
「えーと、よくわかったね? 私、そんなにわかりやすい顔してたかな……」
「そうではないです。むしろ、ボスは、よく隠せている方だと思います。ボスには必要な技能です」
はてなマークが3つくらいは出たのではないだろうか。説明を求めて、リディオを見る。
「カルロは、観察眼がとても優れています。人付き合いが苦手だからこそ身についたのだと思います」
「馬鹿にするな、Cazzo!」
さらっと出てきた聞き慣れない言葉。
「なに? 今の……。かっつお?」
「あ……、スラングの一種です。イタリアでは、スラングは頻繁に使われますから」
リディオが解説を入れてくれる。そして、カルロと、ロレンツォにも解説する。
「あのな、日本では、スラングはあまり使わないんだ」
「……失礼しました」
2人そろって目を点にしたので、面白く見えた。今まで、黙って、面白そうに話を聞いていた陽太も堪えきれずに口の端が少し上がっている。
「どういう意味? スラングも意味ある単語なんでしょ?」
私の問いに、少々くい気味で答えるリディオ。
「ボスは、使わなくていいです。というか、女性は使わない方がいいです」
目は真剣そのものだ。
「使わない方がよいです」
これ、大事なことだから2回言った、ってやつかな? そんなにダメなのだろうか。
……すごく気になる。言うのがダメでも、調べるのならいいよね。知りたいものは知りたいし、しょうがない。うん、リディオごめん。
「でも、面白いな。やっぱりイタリア語は響きが綺麗だし、俺にも教えてくれよ。あ、敬語はやめてくれよ? 俺、そういうの苦手でさ~」
ぱっと場を和ませる陽太。ロレンツォが、陽太の顔を見た。嬉しそうだ。
「俺でよければ」
ここはここで仲良くなれそうだ。この雰囲気のまま混ざれないか、私も便乗してみる。
「私にも教えて欲しいな、イタリア語」
その瞬間、ロレンツォがこっちを見た。
「もちろん、俺でよろしければ」
表情は硬い。あちゃー、だめか……。
「カルロも、教えて欲しいな」
カルロは、話を振られたことに驚いたようで、慌ててロレンツォを見ていた顔をこちらへ向けた。
「……自分でよろしければ」
「私も、普通にしてて欲しいんだけどな……」
ぽつりと、でも聞こえるようにいうと、ロレンツォがビクッとなって、カルロは、一度だけ瞬きをして私をみた。
「本当に、よろしいんですね?」
反応したのはカルロだ。おっ、と思って2回うなずけば、細く長い息を吐いて言った。
「俺でよければ、教える」
ぶっきらぼうにいったカルロからは、不安そうな雰囲気は感じられない。これが素の彼なのだろうな、と思った。
「うん、よろしく」
カルロは、返事のような長い瞬きの後、すいっと目線をそらした。目を細めて、不機嫌そうな顔になる。私が何かしたのだろうか。やっぱり、タメ口がダメなのかなぁ?
「今のうちに簡単に決めておきたい事があるんだけど、いいか?」
すっと視線を元に戻し、私と目が合う。
「俺たちの通う学校についてなんだ」
「いいけど、私たちの学校に来るの?」
それは面白そうだ、と身を乗り出す陽太。興味があることとないことの差がとても分かりやすいのも、彼の特徴だ。
頷くカルロ。カルロは、動作だけで済ませられるならそれが一番のようだ。瞬きや頷きのみのことも多い。リディオやアロンツォ、ロレンツォなど、身振り手振りが大げさな人たちに比べればおとなしいものの、なにかを言うときに手が動いていたりなど、ラティアーノらしいところも見せる。もちろん、ラティアーノは身振りが大きいというのは、本なんかから得た私のイメージでしかないけれど。
「でも、既にリディオが編入しているから、このタイミングで外国人があと2人は無理だよ」
私の意見を言うと、カルロは、頷いて親指と人差し指を立てた。
「だから、片方はリディオやボスとおなじ学校に、もう片方はもう一校に行くことにした。俺の案は、ロレンツォは第二中学校へ、俺は短期留学生として東中学校へと分かれるものなんだけれど」
ここでカルロは、右手の親指を立てる。
「利点としては、『リディオが居るから』という理由で短期留学を申請すれば、2人目の転校生の不自然さが目立たなくなること。2人が別の学校へ行くことで、情報収集できる範囲が広がること。俺がひとりで第二中学校へ行くよりも、ロレンツォの方が効率よう情報を仕入れられそうだということ。あと、俺は、ある程度したら、一度本国へ戻るつもりだということ」
カルロは、理由を重ねる度に、人差し指、中指と、立てる指を増やしていく。4を表すであろう薬指をピンと伸ばして立てたのを見て、思わず自分の指で試す。ムリだ。小指も中途半端に立ってしまう。これは、両手使っても痛い。ヨーロッパの人ってすごい。
「おーい、真希、聞いてる?」
「あ、うん。聞いてるよ。悪い点としては、ロレンツォが東中に来たがってる、って事でしょ?」
陽太に聞かれて、慌てて答える。授業中で慣れっこだから、人がしゃべっているときは、集中モードにならないように気をつけてはいる。
「でも、この場合、利点との兼ね合いもあるしなぁ……。とりあえず、夏紀たちにも、それで相談してみる。一応は、このまま勧める感じでいいかな?」
ロレンツォ含むみんなが、同意してくれる。陽太の「おう」と、イタリア組の「sí」が混ざった。
「なぁ、さっきの、『シィ』ってのは、yesって意味なのか?」
陽太とリディオの会話を聞きながら、次の時は、陽太もそう答えるんじゃないかな、とぼんやりと考えた。
どこで切ったらいいか分からなくなったので、ここまで投稿。
cazzo_イタリアで頻繁に使われるスラングの一種。「くそっ」みたいな意味を持つらしいけど、単語自体の意味は……なんというか、すごくスラング。ちなみに、向こうでは女性も使うらしい。




