他ファミリーの襲撃
2階、玄関(?)に一番近い部屋。
机を挟み、目の前のソファーに座る生徒会長。
リディオが出したお茶を無視し、手紙を取り出す生徒会長、橘亜紀さん。二つ年上の先輩だ。黒いストレートの髪を、背中に流している。眼鏡があれば、アニメやマンガでよくある“生徒会長”になるだろう。
「この手紙をくれたのはあなたたち?」
会長が、私、夏紀、陽太、リディオを順に睨む。リディオが、神妙な顔をして頷いた。
「間違いないです」
会長はため息をつく。
「こんなものに首を突っ込んで、危ないことするんじゃない。こんなの、巻き込まれてる人からしたら、いい迷惑だよ? 遊ぶのは個人の勝手だけど、それに人を巻き込むのは感心しないね」
……言いたい放題言ってくれるな。聞いてて、そこまで言う!? って思った。隣のリディオは限界のようだ。
「そこのみんなも、巻き込まれてるだけなら、こんなの止めた方がいいよ」
会長のその言葉が、決定打となった。
「参加しないなら来なくていいと書いたのに、説教なんかのためにわざわざお越しいただき、ありがとうございました。……俺だけならいいけどな、ボスやファミリーを馬鹿にされちゃ、黙ってらんないね!」
ガバッと立ち上がると、眉間にしわを寄せ、まだ座ったままの生徒会長を見下ろすように見る。部屋の隅の引き出しを開け、黒く光る拳銃――初日に見た物とは少し違うように見える――を取り出す。そして、その場で、それを、容赦なく生徒会長に向ける。
「悪いけど、俺は、生粋のマフィアっ子なんだ」
なんだそりゃ、という突っ込みを入れられる雰囲気ではなかった。
チャ、と軽い音がした。引き金にはかけず、ピンと伸ばしてフレームに沿わせていた人差し指で、トントンとフレームを軽くたたく。
生徒会長はと言えば、優雅にお茶を飲み、まるで動じていない。おもちゃだと思っているんだろうか。
残念ながら、あれは本物だ。何回か、整備の時に見ているから分かる。あれは本来、リディオの愛用している物ではない。みんなで使える、非常用の物だ。非常用の拳銃は、このビルの至る所においてある。
「……ボス」
リディオに呼ばれ、近寄る。次の瞬間、リディオが叫んだ。
「伏せろ!!」
瞬間、窓ガラスが割れる甲高い音が響き、私の真横の窓が、きれいに光を反射するかけらとなった。さっきまで私の立っていた位置の床に散らばるガラス。
ものすごい勢いで着地したガラス達は、信じられないほどに高く跳ね、遠くまで散らばった。
生徒会長は、足下まできて靴にぶつかったそれを、しばらくの間見つめ、慌てて立ち上がる。
直後、生徒会長の顔のすぐ横を、乱雑に開けた窓から飛び込んできた何かが通過し、壁にへこみを作った。低い位置だ。随分と上から打ち込まれたらしい。
ぺたんと、床に座る生徒会長。
「……弾丸だ」
リディオが小さく言ったが、それは、静まりかえった室内ではよく響いた。陽太が反応する。
「でも、なんでだ。……発砲音はしなかった」
「サプレッサーだな」
音を聞いてきたらしいアロンツォさんが答えた。
「生徒会長、だいじょ……」
リディオが顔をしかめると同時、私は生徒会長に駆け寄ろうとし、リディオに腕を捕まれ、止められる。
「ボス」
空いた左手で差し出してきたのは、さっきリディオが持っていた拳銃。小さいけれど、黒く光り、それなりに重い。先がやけに長いが、これがサプレッサーだろうか。
私がそれを受け取ると、リディオは自分用の銃を出す。持っていたようだ。リディオの銃も、サプレッサーが付いている。
「撃ち方は分かりますね? ――人差し指は、フレームに沿わせておいて。撃つ瞬間まで、引き金に指はかけないでください」
急に敬語になったリディオ。それが、けじめのように思える。
――これは、私が、ヴェルデファミリーの(次期)ボスとして、しなければならないこと。
「それは、自分の身を守るために使ってください。最後の手段に」
「……分かった」
返事を聞き、わざと、部屋中に聞こえるように言うリディオ。
「他ファミリーからの攻撃です。ボス、指示を」
私は、目を閉じ、細く、長く深呼吸する。目を開いて、部屋を見渡した。
「弾丸が当たった角度を考えて、向かいのマンションの、ここから1つ上の階の踊り場からだと思う」
――同じ高さから撃ち込まれた物ではない。それならば、壁の真ん中当たりに、壁に垂直に当たるはず。低い位置ならば、天井付近に当たるはずだから、ここよりも上の階。窓から入れるには、2階上からだと無理がある。
「挟み撃ちにする。降参させるよ」
「どうやって?」
陽太が聞く。それは、と言いつつ、頭をフル回転させる。
「陽太と夏紀は、下の店の裏口からでて迂回、隣のマンションから屋上をつたって、上から合流。リディオと私は下から向かう。屋上に出られると面倒だから、なるべく早く挟み撃ちにしたい。アロンツォはここで生徒会長を保護、外へ出さないで」
みんながそれぞれに返事をするのを確認して、リディオに頼んで、夏紀にも銃を渡してもらう。
私と同じ形のように見えるが、もはやそれはどうでもいい。3発目となる銃弾が撃ち込まれたからだ。
「夏紀、サバゲしてたよね。なら、エアガンを持ったことがあるよね。もし、向こうが撃ってこようとしたら、できれば銃だけ飛ばすのが良いけど、手でも良い。最低限の弾で、撃てなくして」
「ラジャー!」
夏紀のスイッチが入る。そういうのが好きな夏紀は、スイッチさえ入ればノリノリでこなしてくれる。
「できるだけ傷つけないこと。……Facciamolo!」
その言葉を合図に、みんながそれ動き始める。夏紀達は、颯爽と部屋を出て、一階へ移動したようだ。
私とリディオは、おとりの意味も含めて、堂々と、2階の階段から外へ出た。小走りで移動し、マンションの下から階段を駆け上がる。暗くなってきた外は、街灯の明かりがそろそろ目立ち始めた。
曲がったら撃たれる、ということがないように、わずかとはいえ実戦の経験があるリディオを前に、私も、周囲を警戒する。
次が3階だ。
「Ecco!」
先に顔を出したリディオが、銃を構えた。
そこには、普通のサラリーマンらしき、スーツを着た男性。
「なんで、俺がこんな目に!?」
――銃は、無い。
一瞬、普通の人かと思ったけれど、すぐにきびすを返して階段を駆け降りる。2階の踊り場からチラッと見ると、キョロキョロと何かを探すスーツの男。道、丁度踊り場の真下当たりには、小さな黒い鞄を拾うスーツの男の人。一見サラリーマンだが、今、確かに、鞄を探していた。
「そこ!」
いぶかしげに振り返る男から銃を隠し、挑戦的に問う。
「鞄の中身は何だ?」
「なんだよ、急に……警察に言うぞ」
「言えないくせに!」
むかっとして、言い返す。随分と演技派のようで。嘘ばっかりじゃん!
私が銃を向けると、男も慌てて銃を出す。私は、男の鞄に狙いを定める。私が引き金に手をかけた瞬間、男の銃に何かが当たり、男の手から銃が離れ、カシャン、と軽い音を立てて落ちる。同時に、私は、引き金を引いた。
銃声はせず、ただ静かに、男の手から鞄が離れた。
1.5階の踊り場から陽太が飛び降り、着地と共に一回転、起きると、男に、柔道の投げ技を決めた。
私は、伸びてしまった男を横目に鞄を拾うと、3階を見る。
優しく笑うリディオと、誇らしげに手を振る夏紀が見えた。
それを見て、自然と力が抜けた。ふう、と息を吐くと、2人に笑顔を返した。
Facciamolo! “ファッチャーモロ” 「やろう!」という意味のイタリア語。
この物語はあくまでもフィクションです。実際の科学、法律、イタリア語、裏社会などには一切関係ありません。
……だから、銃刀法違反とか言わないでください。一応、サプレッサーはつけていて、近所から通報されないようにとか、騒ぎを大きくしないようにとか、ヴェルデファミリーなりに考慮はしてるんですよ。ですが、輸入どうするんだとか、そういうことは聞かないであげてください。
あと、今回出てきた銃の名前は、後々書こうかと思います。




