謎の招待状
ヴェルデ日本基地に通い始めて3日目、夏紀のキャラにも慣れた。
どうやら、私に対して過保護なようだ。元々、夏紀や陽太、私と一緒に遊んでいたメンバーも私のことを妬むようになったことを、今も夏紀と仲がいい友達を通して聞いていたらしい。夏紀はかんかんで、どうにかして、私と直接接点を持ち、守ってくれようとしていたところへ、陽太から連絡が行った、という次第のようだ。
ビルの3階に、夏紀の声が響く。完全防音なので、心配をしなくてすむのがいい。
「急に離れていくなんて、そんなの、友達としてあり得ない! 空気読んで、とか、意味わかんない!」
「まあまあ……」
なんで、私が慰めているんだろうね? ……こういう展開だったら、普通、私が慰められる立場なんじゃ……?
「もう、クラスに乗り込んでやる!」
「やめて! 今は、空気でいることが一番楽な方法だから! 頼むから止めて!!」
「なんで? ……真希の頭なら、他にも案が浮かびそうなのに」
「……散々考えた結果がこれ」
そうなのだ。
授業中も、指名されるまでは解答しようとしない。まして、自ら手を上げて発言権を得ようなどとは、みじんも思わない。休み時間に、みんなの見え透いた嘘や皮肉に心を痛めることもない。みんなも嫌な思いをしないですむし、なにより、私が傷つかずにすむ。
それを聞いた夏紀は、私の両手首を優しくつかむと、うつむいた。
「……ごめんね、私、真希を助けてあげられない」
「そんなこと」
私の言葉は、途中で切られる。
「辛いときに、助けになれてない」
「そんなことはないだろう」
私の言葉を切った夏紀の言葉を、リディオの言葉が切った。面倒だからタメ口でしゃべれと言ってからは、敬語ではなくしている。
「現に、夏紀や陽太が来てから、ボスは少し明るくなった」
ため息をつくリディオを、夏紀が、キッ! と睨んだ。
「わかったみたいなことを!」
「多少の変化だが、確かな変化だ。出会ってから、まだわずかな日数しか経っていないとしても、それくらいの変化に気がつかないほど、落ちぶれてはいない」
むしろ、それに気がつかないようでは、幹部失格だ。と、ぼそっ、というと、私に、書類を回してきた。独り言とは打って変わって、滑舌の良いはっきりとした口調で言った。
「妙な情報が入った。下の店で得た情報だ。ボスの指示を」
そう言われ、夏紀と陽太に挟まれながら、書類を覗く。
一階の店は、ヴェルデの日本支部が運営している。幹部がそろったら、私に任されるのだという。マフィアのボスは、お店の経営もできなくてはならないのか。……荷が重い。
それはさておき、完結今止められた報告書は、とても読みやすく、わかりやすかった。
今日の午前中にきたお客さんから聞いたようだ。お客さんは一般の方らしい。そんな人の意見もまとめるのか。
――ご近所さんとの仲はこじらせない方がいいな。……無理かもしれない。
そんなことを考えていても、書類は読み終えない。慌てて文章を目で追い始めた。
――ここ一週間ほど、小金井という男の写真を見せて、“この人を知らないか”と聞き回ってる人がいるらしい。あまりにも毎日居るので聞いてみたところ、引っ越しをした知人を探しているらしく、この辺にすんでいるはずだ、とのことです。
私が紙をおいたのを見て、リディオが説明を付け足す。
「写真の男がこれだ」
「……あるの!?」
「店員に扮したアロンツォが、店でも聞いてみます、って言って写真を借りようとしても、貸さない。仕方なく、覚えて、模写したそうだ。完璧に記憶だから、多少違うかもしれないけど」
……アロンツォさん、万能。めちゃめちゃ上手い。けど、この顔は……。
「父さんだ。間違いない、小金井道博。私の父さんだよ」
驚いた顔で写真をのぞき込む陽太達。けど、リディオは気づいていたらしい。
「だと思った。元々、セストは小金井道博が継ぐ予定だったんだ。……暗殺されたから、その継承権は今や、彼の娘のものだけどな」
「……暗殺?」
父さんが死んだのは、私のせいだ。しかし、リディオは、それは違う、と言った。
「個人的に調べた。あの殺人は、間違いなく次期ボスだった道博を狙ったものだ。……その話は後だ。今は、目の前のことに集中してくれ、ボス。……ファミリーもそうだけど、下手すれば、ボスの命にも関わる」
私の事を気にしてか、すぐに話題を切り替えると、紙をひらひらと振った。
――確かに、その通りだ。
私は、目を閉じ、細く、長く深呼吸すると、目を開いて、リディオと視線を合わせる。
「リディオ、父さんの情報については、どのくらい他のマフィアに漏れてる?」
「例の顔写真、次期ボスだったということ、このあたりに住んでいるということ。あと、当時からヴェルデに詳しかったファミリーには、彼が死んでいることも知れているはずだ。後はよくわからない」
リディオが、学校のサブバッグからメモ帳を出してめくりながら、的確な情報を、言葉として並べる。
「父さんを殺したファミリーは?」
「まだ、特定はできていない」
余分な言葉を一切省き、できるだけ単語に近い文で返される答え。おかげで、必要な情報を整理しやすい。
「それと今回のファミリーが違うのは確実だね。今回について、心当たりは? ……当時はあまり関わりが無く、最近になって同じくらいの力を持ち始めたファミリーかな」
これには、アロンツォさんが答える。
「それでしたら、いくつか。ただし、日本に勢力を伸ばしているという話は、どれも聞きません。ここから絞るには情報が足りないかと。……紙にまとめておきます」
「よろしく。しばらくは、情報集めを徹底、新しい情報は、入り次第報告して」
「「はい」」
リディオとアロンツォが声をそろえる。
ふう、と息を吐くと、隣で、夏紀の声がした。
「真希」
……2人を忘れていた。
陽太も続く。
「帰ってきたか、真希。集中すると、ホントに周りが見えなくなるな」
「……すいません」
私がうなだれると、リディオが首を振る。
「初めてには思えないくらい良い指示だったよ。すごい集中力だ」
夏紀があっけにとられていたが、元の顔に戻ると、目を輝かせた。なにやら、興奮冷めやらぬ感じだ。
「すごい! かっこいい! ……私も、早く参加できるようになりたい」
……そうだった。夏紀は、アニメとか本とか、そういう、ファンタジーな物が好きなんだった。
「夏紀、健在だね」
「ホントに」
陽太が同意してくれる。吹き出しそうな顔をしていた。
懐かしい友人を垣間見て、さっきの話し合いの時の、緊迫した空気が薄れた。そのとき、インターホンが鳴る。2階の入り口に取り付けられたそれが押されたことは、私が来てから初めてのことだ。
「あ、オレが呼んだんだ」
リディオが降りていき、数段で帰ってくると、私を呼んだ。そして、また降りる。
私は、降りる前にインターホンのモニターで相手を確認する。
単に人を呼ぶリディオと、私が発した、信じられず語気が弱くなった言葉は、同じ音を紡ぐ。
「生徒会長……?」
リディオめ、やってくれたな~!?
この前書き忘れましたが、作中に度々出てくるイタリア語は、信用しないでください。あと、文句も言わないでください。私に、イタリア語の知識はほとんどありません!




