生徒会長
「こいつの銃も本物だ。サプレッサーもないから、本当は使う気もなかったんだろうな」
降りてきたリディオが言い、続いて降りてきた、制服のリボンをつけていない夏紀が聞く。
「非常用って事?」
リディオが頷く。
「使わなくても平気だと思われてたって事だ」
「つまり、ナメられてるって事か」
陽太が言い、再びリディオが頷く。
下の人が探して、持ち去ろうとしていた鞄の中には、たしかに銃があった。それにはサプレッサーが付いており、元々撃つ予定だった事がうかがえる。つまり、こちらに攻撃を仕掛けた後、反撃や追跡はされないだろう、と考えられていたわけだ。一方的に攻撃しても大丈夫、と考えられているのが悔しい。
「そういえば、上の人は?」
「俺が背負い投げ決めてやった」
陽太が答えてくれた。なるほど、ということは、今、目の前で伸びている人と同じ状態なわけだね。
「よく、あの狭さで決められたね」
「着地の時に、軽く階段で頭打ってたかも」
……こっちの人よりも重傷だったみたい?
「ついでに足を縛ってきたけど」
夏紀がけろっとしていった。なるほど、夏紀のリボンはそこに使われたわけですか。
「生きてるならよし」
私が言うと、リディオが首をかしげた。
「なんで、こんな下っ端にそこまで気を遣うんですか? 確かに、情報収集はしますけど、帰すわけにも行かないでしょう。普通は」
そう言って言葉を切り、手にもっていた銃を男に向け、手首を、くっと上に向けた。撃ったときの反動だろう。ようは、殺してしまうのに、と言いたいのだ。
私は、首を横に振る。
「できるだけ殺しはしたくない。ただし、かなりこっちに良い条件で働いてもらう予定。もちろん、監視付きで。まあ、でもまずは……」
そう言ってみんなを見る。もうじき、この道が混み始めるだろう。その前にどうにかしなければならない。
「アロンツォ呼んで、運んでもらわないと」
みんなの緊張が、一気に解けた気がした。
「その前に、ひとつ。夏紀とボスが撃ったんだよな。そのベレ――拳銃は、安全装置のレバーを押し上げて、撃てないようにしておいて。すごく危険だから」
それが終わると、リディオは、改めてみんなを見た。
「生徒会長の前では、ヴェルデについての話はしないでくれ。……ボスと俺でどうにかする」
「……私は参加なんだ?」
「それから、ボスと陽太」
無視されてしまった。決定事項のようだ。
「陽太は勘が良いし、ボスも人一倍頭が良い。違和感を感じることがあれば、教えて欲しい」
「分かった」
「おう。……でも、なんでだ?」
陽太の質問はもっともだけど、それは、襲撃を受けたときから考えていた。候補の内の一つとして、もしかしたら、と。
「生徒会長が、怪しい」
そうに言われ、素直に頷く私。
自分の頭が妙に冷静であることに、内心、少し驚いていた。
2階の部屋からは、ガチャガチャという音が聞こえてくる。
「アロンツォ、大丈夫かな?」
リディオに、「あれだけドタドタしている中へボスを先頭にして行って、ボスに何かあったら大変でしょう!?」と必死に説得されたので、リディオが先頭だ。彼が敬語の時は、私が“ボス”として行動しなければならない最低限の時。“ボスとしての行動”が分かっていない私は、従っておくに越したことはない。
刑事ドラマみたいにして、恐る恐る部屋に入る。
入った途端、中に拳銃を向けるリディオ。それと同時に聞こえてきたのは、アロンツォさんの「やめていただけませんか」という静かな声。
リディオが拳銃を下ろしたのを見て、中を見た。
「は?」
そこには、アロンツォさんのこめかみに拳銃をあてる生徒会長。アロンツォさんはおとなしく両手を挙げている。
生徒会長は、トリガーに人差し指をかけていた。
「ボス、あの持ち方は、銃を扱う上で最もしてはいけないことです。さっきも言いましたが、撃つ瞬間まではトリガーに指をかけてはいけません。……あとは、ボスが考えたことそのままでしょう。どうしますか?」
最もしてはいけないことを実行していると聞いて、すぐに思いついたのは3つだった。
1つ目は、あれが、そうしても良い状態のものだと認識している場合。例えば、あれはモデルガンであり、打ったところで命に別状はない、ということ。あるいは、弾が装備されていないとか、安全装置がかけられているとか。
2つ目は、それを知らない場合。下っ端過ぎて、銃を与えられたときにそれを聞かなかった場合や、元々銃は与えられたものではなくて、どうにかして自分で手に入れたなどの場合。知らなくて当然だが、極めて危ない。
3つ目は、今まさに、撃つ瞬間だと言うこと。
いずれにせよ、危険であることに変わりは無い。そして、サプレッサーのない銃を撃たれれば、確実に問題になる。下のお店も開店中だ。……撃たせないようにしないと。
「生徒会長、落ち着いてください。……銃を、離してください」
そう言いながら、夏紀に合図する。生徒会長に見えないように、背中に手を回し、手で、銃の形を作った。視界の隅で夏紀がうなずき、銃を隠しつつ安全装置をはずしたのを確認すると、私はゆっくりと手を開く。
「あの襲撃は、何だったの?」
私の方を向くリディオに頷いてみせると、彼は生徒会長に視線を合わせた。
「……まだ特定はできませんが、あなたのお仲間ではないか、と考えています」
「……」
それを聞いた生徒会長は、ふっ、と力なく笑った。
アロンツォさんは動かず、生徒会長の腕が、ピクリと動いた。同時に、私は、背中に回したままの手をぎゅっと握る。
人口密度の高い部屋に、サプレッサーのない、大きな銃声が響いた。
他に連載している話と一緒に投稿するので、投稿ペースが遅くなります。すみません。




