第9話 イエローハートの勲章
第9話 イエローハートの勲章
飛翔の悪魔ゲルゾラーダが、地響きを立てて崩れ落ちた。
「やった……あのゲルゾラーダを討ち取ったぞ。あの、攻撃力ゼロのヒーラーたちが……!!」
戦場に驚きと歓喜の声が響き渡る。アマリアとリンが、泥まみれの太一に飛びついた。
「やった、やったぞ太一!」
「流石です、太一! やはりあなたは、ただのヒーラーではない!」
「おい、待て……二人とも泣きすぎだ。あと、抱きつくな。さっきの爪が肋骨を掠めてる……折れてる、絶対に折れてるから……!」
太一の悲鳴を余所に、戦場にはさらに大きな変化が訪れた。
「見ろ! 魔王軍が引いていくぞ!!」
指揮官を失った魔物たちは、潮が引くように闇へと消えていった。
太一はリンに肩を借り、命からがら城へと帰還した。宿屋は相変わらずの混雑で、一部屋しか空いていなかった。狭いベッドに三人で横たわるという異常事態に、アマリアの小言が始まる。
「太一、貴様は女子泣かせの前科持ち。万が一、我ら女神や騎士に手を出そうものなら……」
「アマリア様。太一はもう寝ております……」
「最後まで聞かぬか太一ー!」
翌朝。太一が自分自身に『ライブラ』を唱えると、診断結果はやはり「肋骨骨折」であった。
そこへ、城主ドリアルが護衛も連れず、直々に宿屋を訪ねてきた。彼は三人の前に立つと、深く頭を下げ、光り輝く勲章を取り出した。
「これは私からの感謝の印だ。そして太一。自らを犠牲にして皆の命を救ったお前には、この『イエローハート勲章』を授与する」
ドリアルは苦渋の表情を浮かべ、声を潜めた。
「本来なら全軍の前で大々的に讃えたいのだが、今は帝国からの監査が厳しくてな……。どうだろう、しばらくこの城のお抱えヒーラー二人と騎士として、力を貸してくれないか?」
太一はアマリアとリンの顔を見合わせ、静かに頷いた。
「俺はこの地に来てまだ日が浅い。ここを拠点に、俺にできることをさせてもらいますよ。……アマリア、リン、いいかい?」
「もちろんです!」
「ふん、お抱えならば飯の心配はなくなるな。承知した!」
去り際、ドリアルはふと足を止め、太一に問いかけた。
「しかし太一。何故そこまで、他人のために命をかけられるのだ?」
「……自己犠牲、のことですか。俺たち専門職の人間は、時として自分より周りや対象者を優先してしまうことがあるんです。やりすぎると自分が先にくたばってしまう……。次は本当に、気をつけますよ」
太一の言葉には、異世界の住人には理解しがたい、けれど確かなプロフェッショナルとしての重みがあった。




