第10話 国家規模のグランドデザイン
第10話 国家規模のグランドデザイン
魔王軍の幹部クラスであるゲルゾラーダを、たった三人のパーティが討ち取った。
このニュースは異世界を駆け巡り、久しぶりの大勝利に人々は沸き立った。しかも、その立役者が二人のヒーラーと一人の騎士であるという事実は、軍部にも大きな衝撃を与えた。
「イエローハート勲章の保持者をお迎えできて光栄です!」
救護施設の責任者、デル・アポロ中尉が最敬礼で太一たちを迎え入れた。この勲章は、この世界において自己犠牲を厭わぬ英雄にのみ与えられる、最高位の栄誉であった。
連日、運び込まれる傷病兵の救護に奔走する太一、アマリア、リン。そんなある日、太一はデル・アポロ中尉に対し、ある壮大な提案を切り出した。
「中尉、折り入って相談がある。この施設を抜本的に作り直したいんだ」
「何なりとお申し付けください、太一殿」
「まず、治療に専念する『急性期の医務室』。状態が落ち着いた者が入る『療養室』。そして、戦線復帰を目指すための『リハビリ室』。これらを明確に分けたい」
太一は、現代の医療・福祉体制をモデルにした区分を説明した。
「特にリハビリ室は、入院患者だけでなく外来通院の兵士も利用できる施設にしたい。ただ治すだけではなく、機能を回復させてから現場に戻す仕組みが必要なんだ」
デル・アポロ中尉は驚きに目を見開いた後、困り顔で頭をかいた。
「ははあ……。それは素晴らしい考えですが、ドリアル様一人の権限では予算が足りませんな。一度、帝国まで出向いて帝国議会と交渉し、軍予算を引き出すのが宜しいかと。勇者マルセルの一行が死んだ件で、上層部も今の治療体制に疑問を抱いていますからな」
アマリアが傍らから口を挟む。
「ただ、ここだけが前線とも限らぬからな。ここにだけ巨大な施設を作って、果たして意味があるのかえ?」
「それも含めて、帝国の作戦参謀たちと話し合ってくるといいでしょう。私が案内に士官を一名同行させます」
「助かるよ、中尉。俺たちはまだ、この世界の全容をわかっていないからな」
太一はそう答えながら、窓の外に並ぶ負傷兵たちの背中を見つめた。
「それに……傷病兵には、傷よりも怖いものがあるはずだ」
「ん? それは何だ、太一よ」
アマリアの問いに、太一は少しだけ表情を曇らせた。
「いや、考えすぎかもしれない。……とにかく、今は帝国議会へ向かおう」
太一の脳裏には、身体の傷が治っても心が折れ、二度と社会に戻れなくなったかつての「利用者」たちの姿が浮かんでいた。異世界でもそれは変わらないはずだ。
ヒーラーとして、マネジャーとしての本当の戦いは、ここから始まるのかもしれない。




