第8話 撤退勧告と決死の囮作戦
第8話 撤退勧告と決死の囮作戦
監査官が到着してから二日後。城主ドリアルに呼び出された太一、アマリア、リンの三人は、重苦しい空気が漂う応接間へと向かっていた。
「何やら嫌な予感しかしないのう!」
アマリアが不安そうに身を寄せた。
入室した三人を迎えたのは、椅子に力なく腰掛けるドリアルの姿だった。
「何か良くないニュースでもありましたか?」
リンの問いに、ドリアルは重い口を開いた。
「……二つある。一つは、城兵諸共、討って出よとの帝国からの命。そしてもう一つは……傭兵や冒険者、そして貴様らヒーラーは、一時前線から後退せよとのことだ」
その場に衝撃が走る。
「我らは如何すれば……?」
「案ずるな、そなたらの扱いは冒険者という位置付けだ。自由にしてよい……」
そこへ、救護施設の将校が入室してきた。かつて太一に反発していた彼は、神妙な面持ちで頭を下げた。
「ドリアル様、準備が……。……ヒーラー、そして女神様。いつぞやは無礼を働いた。許してほしい。君たちなら、この異世界の不条理を覆せるかもしれんな」
ドリアルは執事に命じ、黄金の詰まった袋を三人に渡した。
「少ないが取っておきなさい。そなたらは死んではならんぞ」
夕刻、馬車の荷台に乗せられた三人は、城を後にした。奇襲を仕掛けるという軍の出撃を見送る形だ。だが、魔王軍はすぐそこまで迫っていた。
「……太一。いいのか? 我らだけで逃げて」
「……いいわけないだろ!」
「やりますか……!」
三人は馬車を飛び降り、戦火の上がる方角へ全力で駆け出した。
「待て、そろそろ前線だ! みんなにリジェネを付与するぞ!」
「リン、悪いが俺たちは攻撃力ゼロだ。ヒールとリジェネで全力バックアップする!」
「戦さのことは私に任せろ!」
「頼もしいぞ、リンよ!」
戦場に辿り着いた三人が目にしたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
「あれは……ゲルゾラーダ! 空を飛ぶ悪魔だ! みんな、首を守れ!」
リンの叫びと共に、上空を旋回する悪魔が急降下してくる。間一髪で横っ飛びに回避したアマリアが悲鳴を上げる。
「ひえええ! 怖すぎるわ! リン、頼むぞ!」
「しかし、奴の弱点が分かれば……っ!」
太一は自らの頭を叩いた。
「ハッ、こんな時のための『ライブラ』じゃねえか、俺のバカ!……ライブラ!!」
判明したステータスは驚愕のものだった。
【ゲルゾラーダ:レベル50/HP60000】
「弱点は……後頚部! うなじだ!」
太一は覚悟を決めた。
「よし、アマリア! 俺が囮になる。攻撃される瞬間に合わせて『ヒアリル』で回復しまくってくれ!……来たぞ!! リン、頼む!!」
「任せろ!」
悪魔の鋭い爪が、太一の胸を深く貫いた。だがその刹那、アマリアの即時ヒアリルが炸裂し、傷口を瞬時に再生させる。
「リン、今だ!!」
「喰らえええええ!!」
リンの剣が、無防備になった悪魔のうなじを深々と切り裂いた。
「やった……か……?」
太一は崩れ落ちた。
「グェ……爪が刺さったままだ……早く次の、ヒアリルを……」
「おおい、太一大丈夫か!? ヒアリル二発連発は身体に堪えるぞ!」
「いいから……早くしろ……っ!」
この決死の光景を、残存していた城兵たちが目撃していた。
「おお……あのヒーラー、とんでもない作戦を立てやがる」
救護施設の将校は、震える声で呟いた。
「ドリアル様……彼らこそが、真の勇者ですぞ……」




