第7話 勇者の帰還と「生還」の分岐点
第7話 勇者の帰還と「生還」の分岐点
太一、アマリア、リンの三人が城主ドリアルと謁見していたその時、城の中庭がにわかに騒然となった。一人の城兵が血相を変えて応接間に駆け込み、城主に耳打ちする。
「な、何だと!? 勇者マルセルの一行が壊滅して、全員重症だと!?」
「こうしちゃおれん! 行くぞ太一、リン! 失礼します!」
アマリアが叫び、三人は謁見の間を飛び出した。
運び込まれたのは、勇者マルセル、魔導師ガイア、そして戦士ミーアの三人であった。いずれも半死半生の惨状である。リンが手際よく三人を受け止め、施設内へと運び込んだ。
「とにかくヒールを! 太一、お前は比較的軽傷のその女戦士を診ろ!」
指示を飛ばすアマリアだったが、太一にミーアを任せた直後、ジト目で彼を見下ろした。
「……またお前は、美女担当か?」
「アマリアは上位魔法が使えるだろ! さっさとヒアリルで他の二人を救ってやれ!」
ミーアの負傷部位は頭部であった。太一が出血部位を確認し、ヒールを唱えると傷口は完全に塞がった。
しかし、ミーアはあまりの恐怖からか、身体の震えが止まらない。
一方、勇者マルセルは右足から激しく出血しており、魔導師ガイアに至っては意識すらなかった。
「そっちの魔導師の方がまずいな……!」
太一はガイアにライブラを唱えた。判明したステータスは「心肺停止」。敵の水魔法による水没が原因のようだ。
「すぐに心肺蘇生(CPR)を始める!」
太一は迷わずガイアの胸に手を置き、リズムよく胸骨圧迫を開始した。隣でマルセルの治療にあたっていたアマリアが、その異様な光景に目を丸くする。
マルセルの話によれば、ガイアが意識を失ったのは二十分前。前線のヒーラーがヒールをかけ続けていたが、一向に意識が戻らなかったという。
(魔法で傷が治っても、肺に入った水までは抜けないし、止まった心臓は動かない!)
太一は必死にマッサージを続けた。ドンドンドンドン、と正確なリズムで圧迫を繰り返す。
「ヴェ、ゴホゴホ……っ!」
やがて、ガイアが水を吐き出し、大きく息を吹き返した。
「おおお! あのヒーラー、死にかけの魔導師を蘇生させやがったぞ!」
周囲から驚嘆の声が上がる。太一は息つく暇もなく、失った体力をヒールで補填した。
「ほ、本当によく動く奴じゃな……」
アマリアも、太一の的確な救命処置には感心せざるを得なかった。
マルセルの止血もアマリアの『ヒアリル』で完了した。しかし、見た目の傷が塞がっても、ライブラが示す通りマルセルは大腿骨を骨折していた。
足を引きずるマルセル。呆然自失のガイア。震えが止まらないミーア。
だが、将校は無慈悲にも再出撃の号令を下した。
一週間が経ち、太一が診た軽傷者たちが動けるようになっていたことも、将校の判断を過信させた一因だった。
太一は城主ドリアルを鋭い目で見据えたが、ドリアルは苦渋の表情で首を横に振るのみだった。
出撃の前、マルセルが太一のもとを訪れた。
「太一……といったか。助かったよ。また戻ってこれたら、一杯奢らせてくれ」
しかし、その約束は永遠に果たされる事はなかった。
太一の指示で十分な休養とリハビリを取った軽傷者たちは、全員が無事に戦地より帰還し、大きな手柄を立てた。
十分なケアを受けられぬまま戦場に引き戻された勇者マルセル一行は、そのまま名誉の戦死を遂げたのである。
後日、帝国フランシアから勇者討ち死にの報を受けた監査官が派遣された。城主ドリアルは、自身の判断が招いたこの重すぎる結果を、深く受け止めることとなる。




