第6話 城主の詰問と正論
第6話 城主の詰問と正論
軽傷者を次々と回復させてはいるものの、前線への復帰速度は軍の期待を大きく下回っていた。この事態を重く見た施設管理者の将校は、ついに城主へと報告を入れる。
一週間が経つ頃、右前腕橈骨骨折の騎士アレンと、膀胱炎を患っていたリンの病状は劇的に改善していた。特にリンは、太一の指示通り水分をしっかり摂り、清潔を保ち、ビタミンを摂取したおかげで回復が早かったのである。
「太一、女神アマリア様。本当にありがとうございました」
「いえ、よかった。あのまま前線復帰していたと思うとゾッとするよ」
太一は心底安堵したように胸を撫で下ろした。すると、アーメリア騎士のリンが、どこかモジモジとした様子で太一に切り出した。
「あの……太一。良かったら、腕利きの騎士を一人、雇わないか?」
「え、いや、俺はこの世界に来たばかりだし、雇う余裕なんてないよ」
(待て待て太一よ……。我らは攻撃手段のないヒーラーだぜ? ここは騎士リンを雇う……もとい、護衛という名の金蔓にするしかあるまいて)
「あんた、俺のことを女泣かせとか言ってなかったか? アマリアの方がよほど悪党じゃないか……」
二人のやり取りを余所に、リンは真剣な眼差しを太一に向けた。
「……それでも構わない。私は、太一の人を助ける思いやりの心に惹かれたんだ。騎士も、太一のようにあるべきだと私は思う!」
「そ、そうか。助かるよ。ちょうど人手も欲しかったんだ」
太一はアレンのリハビリ用器具を作るため、リンに「騎士が持ち上げられる程度の石」を拾ってくるよう依頼した。リンは「お安い御用だ」と郊外へ駆けていく。
日々増え続ける負傷兵。ヒールで外傷は治せても、骨折や内科的な再発には、魔法だけでは限界がある。
(やはり兵士には、休息と、治癒後のリハビリ、そして適切なケアが必要だ)
太一がアマリアと共に重症患者の処置にあたっていた、その時だった。
天幕に、乱暴な足音と共に将校と城兵が踏み込んできた。
「ヒーラー二人……貴様らを城主ドリアル様の前に突き出してやる!」
将校が二人に掴みかかろうとした瞬間、石拾いから戻ったリンが鉢合わせる。
「何やってんだテメェ!!」
リンが放った鋭いボディアッパーが一発、将校の腹に沈んだ。
「ご、ごふう……っ!」
「リン、助かった! こやつら、まだあたしを神だと敬っておらんのじゃぞ!」
結局、二人は城内へ連行されることとなった。
「タダ働きのうえに、偉い人に怒られるのか? 理不尽は現世だけにしてくれよ」
「まあそう言うな。私と出会えたことだしな!」
毒づく太一を、リンはどこか嬉しそうに励ました。
城主ドリアルの応接間。重苦しい空気の中、ドリアルが口を開いた。
「お前たちが来てから、前線復帰の効率が極端に落ちているという。何故だ?」
「……? そのことですか。体力を完全に回復させてから、と考えていますので」
「それでは間に合わん!」
ドリアルの怒声が響く。しかし、太一は物怖じせずに言葉を返した。
「いえ……不完全な回復のままでは、前線で役に立たないと思いまして」
「何だと?」
「例えば、骨折していたアレン。彼は利き腕を負傷しており、ようやく生活リハビリで腕を使える状態に戻そうという段階です。勝つために万全を期すのは当然ではないですか? 兵を玉砕させたいのであれば、ご自由にどうぞ。私はただのヒーラーですので」
太一の淡々とした、しかし筋の通った正論に、ドリアルは毒気を抜かれたように沈黙した。城主の目が、太一という男の「価値」を測るように細められた。




