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スキルが「ヒール」で被った女神と俺。攻撃手段ゼロの異世界ケア ~「治ったから戦え」はブラックすぎます。まずはリハビリ3ヶ月、ADLの向上から始めましょう~  作者: A古町
ダメな女神と不運な男

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第5話:乙女の尊厳とメディックの意地

第5話:乙女の尊厳とメディックの意地

改めて、太一は解析魔法『ライブラ』を発動させた。空間に半透明のウィンドウが浮かび上がり、目の前の患者のデータが羅列される。


「リン、女性、レベル27。HPは3200か……」


「太一……! 余計なところまで見るなと言っただろう!」


リンの鋭い牽制が飛ぶ。しかし、太一は真剣な眼差しでウィンドウを操作し続けた。


「あ……いや、仕方ないだろ。まだ使い始めたばかりの魔法なんだから。加減が難しいんだよ」


しばらく表示と格闘していた太一だったが、やがて「よし」と小さく頷いた。


「慣れてきたぞ。ええと、診断結果は……『膀胱炎』、ですね」


その瞬間、リンの顔面が沸騰したかのように真っ赤に染まった。綺麗な黒髪のポニーテールが、驚きと羞恥で跳ね上がる。


「……お、お嫁に行けない……っ」


「はははッ! 心配するでない、リンよ。その時は太一が責任を持って貰ってくれるゆえ、安心せい!」


傍らでアマリアがニヤニヤしながら余計なお節介を焼く。太一はそれをスルーしつつ、真面目なトーンで治療方針を告げた。


「……まあ、リンさんの場合はまだ軽症だ。水分を一日二リットル摂って、トイレは絶対に我慢しないこと。あとはビタミンCをしっかり取って、風呂に入って温まって寝る。これに尽きるね」


「太一よ、しかし何故このうらわかき乙女が、そんな……おしっこの病になどなったのだ?」


アマリアの素朴な疑問に、太一は分析を口にする。


「うーん……ストレスと緊張。それに戦場だとまともに水分が取れないし、何よりトイレを我慢し続けていたんだろうな……」


「なるほど。強気を見せてはおるが、実は相当のプレッシャーがあったのじゃな」


二人の遠慮のない会話に、リンの羞恥心は限界を突破する。ライブラでステータスを晒される以上に、その赤裸々な分析に顔面はさらに赤くなっていく。


「お、太一! また熱が上がっておるようだぞ!?」


そこへ、騒ぎを聞きつけた将校がずかずかと踏み込んできた。


「おいおい! メディックよ、こんな軽症も治せんのか!? このままでは城が落とされると言っているだろう!」


「……いいえ、一週間の安静が必要です」


「……またそれか! 貴様はそれしか言えんのか!」


太一は将校を真っ直ぐに見据えた。


「ええ。流石にこの熱がある状態では、戦地への復帰は許可できません」


「おおお! 太一が上官に反逆しておるぞ!」


アマリアが面白がって煽る中、室内には火花が散るような沈黙が流れた。患者を休ませたいメディックと、一刻も早く戦力として放り出したい将校。まさに最強の盾と矛のぶつかり合いだ。


それを見かねたのか、リンがふらつきながらベッドを降りようとした。 


「……ありがとう、太一とやら。だが、私は戦地へ向かうよ……」


「おお! さすがはアーメリアの一騎当千を誇る騎士団員だ。さあ、行かれよ!」


勝ち誇る将校。しかし、太一はリンの肩を掴んで力強く止めた。


「ダメだ。行かせるわけにはいかない」


「……なんだと?」


将校の低い声に、太一は一歩も引かない。


リンは、自分を必死に止めようとする太一の後ろ姿をまじまじと見つめた。


(ドキン……。くっ、この男……私のために、ここまで……)


太一の熱意に押されたのか、将校は忌々しそうに鼻を鳴らした。 


「……分かった。上には私から報告を入れておく。チッ……」


将校が部屋を去ると、太一は大きく息を吐いた。


「あ、助かったな、リン!」


アマリアがそっと背中を叩くと、緊張の糸が切れたのか、リンはそのまま吸い込まれるようにベッドへと倒れ込んだ。


「えええ!? 太一よ、あたしは何もしてないぞ! 触れただけじゃ!」


「……せっかく軽症だったのに、お前がメンタルに致命傷を与えやがったか……!?」


真っ赤な顔で気絶したリンを前に、太一の頭痛はさらにひどくなるのだった。

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