第34話 リハビリの罠と指名料の罠
第34話 リハビリの罠と指名料の罠
新設された療養病棟では、リン、ローザ、リュックの三人が慌ただしく兵たちを見て回っていた。
リュックが朝食の準備を終えると、次はリンによるリハビリの時間である。
リンは一人ひとりの動きを丁寧に確認していく。いわゆる「個別リハビリ」だ。
「まだ肘関節の動きが万全ではないわね。今日は大剣ではなく、軽い剣の素振りから始めましょう」
「は、はいぃ……!(ああ、リン様……なんていい匂いなんだ……)」
指導を受ける兵士は、痛みなど忘れたかのようにデレデレと鼻の下を伸ばしている。
午後からはローザによる「集団リハビリ」が開始される。
「さあ……参りますわよ。皆様、私についてきてくださいまし!」
白銀の髪をなびかせ、凛々しく剣を振るローザ。その姿を見守るリュックは、ある違和感に気づき、アマリアに耳打ちした。
「……アマリア様。あいつら、絶対にもう治ってますよね?」
二人が観察したところ、退院基準を満たしているはずの兵たちが、一向に荷物をまとめようとしないのだ。
理由は明白であった。兵たちは元気になればなるほど、リンやローザの美しさと、リハビリ時の密な接触を目的とした「居座り」を決め込んでいたのである。
その夜、定例のカンファレンスが開催された。此度は、視察中の皇帝陛下も末席に加わっている。
「リン! ローザ! 退院できそうな兵はさっさと前線へ送るのじゃ! あのスケベ兵ども、デレデレといやらしい目つきでそなたらを見ておるぞ!」
アマリアが机を叩いて叫ぶ。
「う……あはは.....薄々そんな気はしておりましたが……」
リンが苦笑いする傍らで、ローザが冷たい瞳を細めた。
「腰抜けどもが……。明日からは私のレイピアで、どいつもこいつも串刺しにして差し上げましょうか」
「ええい、それでは怪我人が増えて入院期間が延びるではないか! 太一よ、何か手はないか! あのスケベどもを追い出す方法を!」
太一は腕を組み、現実的な解決策を提示した。
「うーん。一応、入院費は払ってくれているからなあ……。よし、『期限』を切ろう。医学的な回復は済んでいるんだ。リハビリ期間を最大一週間と定め、それ以上の入院を希望する者は保険適用外……全額自己負担の『十割負担』にする」
「おお! それなら金惜しさに退院しそうじゃ! それでも居座る奴からは、リンとローザの『指名料』も上乗せしてふんだくってやるわい!」
「あはは、そんな……パブじゃないんですから」
困り顔のリンを余所に、アマリアの目にはすでに金貨のマークが浮かんでいた。
その様子を黙って見ていた皇帝が、重厚な声で感嘆を漏らす。
「ふむ……毎夜、このように会議をしておるのか?」
「はい。問題が小さいうちに話し合って解決するのが、組織運営の基本ですから」「なるほど、それも一種の兵法よな。『期間を切る』というのは英断じゃ。国民の血税を兵の享楽に使わせるわけにはいかんからな」
皇帝の理解も得て、太一の「異世界病院経営」は、さらなる適正化へと舵を切る。




