第35話 メダル・オブ・オナーと第六天魔王
第35話 メダル・オブ・オナーと第六天魔王
魔王軍の攻撃は依然として散発的に続いていたが、前線の風景は一変していた。
ヴィネの残した塔を帝国物資で強化した「前線救護基地」、ドリアル城の「リハビリ施設」、そして後方の「精神科施設」。
これらが太一の構築したシステムによって見事に連動し、兵の供給が安定したことで、前線は鉄壁の維持を見せていたのである。
太一とアマリアがこの世界に降り立って数ヶ月。帝国領には、かつてない平穏が訪れようとしていた。だが、フランシア皇帝は現状維持で満足してはいなかった。前線が安定した今こそ、ドリアル城を拠点とした「魔王軍討伐」を企てていたのだ。
ある日の午後、太一はふとした疑問をアマリアにぶつけた。
「魔王、魔王と毎日聞かされるが、一体どんな奴なんだ?」「ふ、そんなことも知らないのか……って、あたしも実は詳しく知らん」
「おい」
そこへ、白銀の髪を揺らしながらローザが近づいてきた。
「今日は大切な軍議があります。情報将校も出席しますから、参加してみませんか?」(太一様をお誘いしてしまったわ……♡)
内心のときめきを隠し、ローザは鋭い眼光で太一を射抜く。
さらに、施設将校デル・アポロが足早にやってきた。
「太一殿、アマリア様のパーティは本日の軍議に参加せよとの皇帝陛下からの命です」
「おお、丁度良かったな太一よ。我らもその話をしていたところじゃ!」
傷病兵のケアを終えた一行は、重苦しい空気が漂う軍議の末席へと座った。
皇帝フランシアが、居並ぶ将星たちを前に口を開く。
「まず……女神アマリア、ヒーラー太一、アーメリア騎士リン、ローザ准尉、冒険者リュック。そなたらには『メダル・オブ・オナー(名誉勲章)』を授与する!」
「め、メダル・オブ・オナー……!!」
ローザが椅子を蹴らんばかりの勢いで飛び上がった。
「なんじゃ、目玉オブイヤー?」
アマリアが首を傾げると、リンが驚愕に目を見開いて教えた。
「最高の栄誉ですよ、アマリア様……! 帝国の歴史に刻まれるレベルです!」
「冒険者の僕が……本当に頂けるのですか!?」
リュックも信じられないといった様子で震えている。
置いてきぼりの太一とアマリアだったが、太一は特に動じた様子もなかった。
「まあ、貰えるものは頂くとするか。なあ、アマリア」
皇帝から直接勲章を授かる際、ローザは涙を堪えて震えていたが、太一はイエローハートに続く最高勲章を、まるで診察券でも受け取るような冷静さで受け取った。
(太一様は勲章など目に入っていない……。なんという胆力、なんという器……!)
ローザは、その「欲のなさ」に改めて衝撃を受けていた。
「で、皇帝。肝心の魔王というのはどんな相手なのです?」
太一の淡々とした問いに、皇帝は頷き、一人の男を指し示した。
「……情報将校のシカティック少佐から説明させよう」
眼鏡を光らせたシカティック少佐が、古びた巻物を広げながら重々しく告げた。
「……復活した魔王は。かつて異世界『日ノ本』を火の海に変えたと言われる、伝説の残虐王――第六天魔王にございます……!!」
その名を聞いた瞬間、太一の背筋に、これまでにない冷たい戦慄が走った。




