第33話 救護所の怒号と皇帝の英断 フランシア帝国
第33話 救護所の怒号と皇帝の英断
フランシア帝国の旗印を掲げた皇帝直属の騎士団が、地響きを立ててドリアル城へと入城した。運ばれてきたのは、山のような救援物資。
その中心には、一際まばゆい光を放つ黄金の甲冑を纏った男――皇帝フランシアその人がいた。
城主ドリアルは、すぐさま皇帝を玉座へと招き入れた。
「ふむ、ドリアルよ。此度の戦、誠によくやってくれた。魔王軍の幹部であるヴィネとメフィストフェレス、この二名を同時に撃退したそうだな」
ドリアルは深く平伏し、慎重に言葉を返した。
「ありがたき幸せに存じます。しかし此度は我らのみならず、他国の騎士団や冒険者も多数参加し、死力を尽くした結果でございます。特に、女神アマリア様と太一殿の活躍には、目を見張るものがあり……」
「ほう、いつぞやのヒーラーか。面白い。ここへ呼ぶが良い」
その頃、太一たちは建設中の新救護施設で、一刻を争う人命救助に当たっていた。そこへ施設将校デル・アポロが駆け込み、皇帝との謁見が許されたと伝える。
だが、太一の反応は冷ややかであった。
「今は手が離せない。重症者ばかりだからな。……リュック! 薬草を! それから療養食の準備だ、急げ!」
「ひ、人使いが荒いんだから!」
「まあ言うなリュックよ、太一も必死なのじゃ」
アマリアが宥めるが、デル・アポロは生きた心地がしなかった。皇帝を待たせるなど、本来ならば死罪に値する不敬である。
案の定、業を煮やした近衛騎士団たちが土足で救護所へと踏み込んできた。
「おい、貴様ら何をしておる! 皇帝陛下がお待ちだぞ!」
アマリアがムッとして言い返す。
「なんじゃ! ここは傷痍軍人で溢れておるのが見えんのか! 出てゆかぬか!」
「何だと! ヒーラー風情が神を騙りおって!」
「貴様らいい加減にしろ!」
リンも加勢に加わった。
「猫の手も借りたい時に! 皆、連日戦いに暮れて疲弊しているんだ!」
「黙れ、アーメリアの傭兵風情が!」
「なっ、私はアーメリアの正規騎士だぞ!」
さらに、ローザが冷徹な瞳で近衛騎士を射抜く。
「我らは前線で泥を啜って戦った。内地でのほほんとしていた貴様らに、偉そうな口を叩かれる筋合いはないわ」
一触即発の口論が爆発しようとしたその時、太一の怒声が救護所に響き渡った。
「いい加減にしろ!!」
太一は血と泥に汚れた手で、目の前の惨状を指し示した。
「近衛騎士団様。この有様を見てください。四肢を失った者もいます。彼らは皆、敵を帝都へ行かせまいと、貴様らの家族を守るために戦った者たちだ! 分かりませんか!?」
「む、むう……」
その時、重厚な足音と共に一人の男が現れた。
「騒がしいな……」
「へ、陛下! このような不浄な場所へ……お召し物が汚れます!」
近衛が慌てて制するが、皇帝フランシアはそれを一喝した。
「ええい、下がらぬか馬鹿者ども! 太一の言う通りだ。この者たちがいたからこそ、帝都の安寧がある。……太一よ、構わん。この者たちを一刻も早く回復させよ!」
「……は、ははあ!!」
近衛騎士団たちが一斉に膝を突く。皇帝の英断により、救護所は再び静かな、しかし熱い活気を取り戻した。




