第32話 凱旋なき帰還と皇帝の影
第32話 凱旋なき帰還と皇帝の影
魔王軍の幹部ヴィネを撃退した太一たち。ドリアルたち騎士団、傭兵、そして冒険者の混成部隊も、逃げ惑う魔王軍の残党を取り囲んで殲滅した。
ここに、ドリアル城領域周辺から完全に魔王軍は排除され、見事な完全勝利を収めたのである。
さらに、ヴィネが残した円柱型の出城の鹵獲にも成功した。これにより、前線に念願の救護施設を容易に設営することが可能となった。
「太一よ! またしても大手柄じゃな!」
女神アマリアは満面の笑みを浮かべ、太一の背中を豪快に叩いた。
だが、太一の仕事はここからが本番であった。
太一は休息も取らず、すぐにドリアルたちが死闘を繰り広げた中間地点へと引き返した。確かに魔王軍には勝利した。しかし、その代償として、味方側にも夥しい数の戦傷者を出してしまっていたのだ。
これこそが戦争の惨劇であり、中央都市でふんぞり返る皇帝陛下が、一生見ることもないであろう阿鼻叫喚の現実であった。
「……太一、か?」
城主ドリアルも傷だらけになり、精魂尽き果てた様子だった。太一は即座に『ヒール』を唱え、彼の疲労と傷を癒やす。
「うむ……助かったぞ、またしても」
「はい。しかし、ここからが俺の本領です。すぐにドリアル城へ傷病兵を連れて戻ります。軽傷者は前線の出城周辺の防御を強固にして、救護施設を作ってください!」
ドリアル城へ傷病兵を運ぶ太一、アマリア、リン、ローザ、リュックの五人は、おのずと口数が少なかった。その様子は、勝者というよりもむしろ敗残兵のようであった。
ドリアル城では、新しい救護施設の建築が着々と進んでいた。旧救護施設では、すでに施設将校のデル・アポロ中尉が指揮を執り、受け入れ態勢を整えている。
「太一殿……この夥しい傷病兵の数。相当な激戦だったのですね」
「ああ。俺とアマリアのヒールだけでは到底間に合わない。軽傷者は食事療法で体力を回復させていくぞ。……リュック!」
太一がリュックを呼ぶと、彼女はジト目で太一を見つめながら、慌てて胸元を隠そうとした。
「な、なんですか……。僕はアマリア様の言葉しか聞きませんからね!」
「……そんなことを言っている場合か。君は薬草には詳しいか?」
「え、ええ。それなりには」
「なら、軽傷者それぞれの症状を見ながら、食事に薬草を混ぜて食べさせてくれ」
その指示を聞き、リンが納得したように頷いた。
「なるほど、毒を受けた者には毒消し、呪いを受けた者には聖水を。症状に合わせた療養食(食事)を出すというわけですね」
「ふん、リンなら膀胱炎だからナニが効くのかのう?」
アマリアがからかうと、リンは顔を真っ赤にした。
「い、今はもう治っています!」
「再発するから、ビタミンと水分は切らさないでくれよ、リン」
太一がすかさず療養食の指導を開始する。
しかし、現場の熱意とは裏腹に、物資が思うように手に入らないという現実的な壁が立ち塞がっていた。
「ドリアル様。ここは魔王軍との最前線基地です。なんとか独自のルートで物資調達はできませんか?」
「う、む……。酒ならいくらでもあるのだがな……」
ドリアルが困り果てたように呟く。
その時だった。西の方角――すなわち帝都フランシア方面から、地響きを立てて巨大な軍勢が押し寄せてくるのが見えた。
「あ、あの旗印は……皇帝直属の近衛師団!? まさか、皇帝陛下直々のお渡りか!?」
思わぬ大物の登場に、ドリアル城に新たな緊張が走った。




