第29話 逆転の軍議(カンファレンス)
第29話 逆転の軍議
「……こんな真似ができるのは、魔女ヴィネか」
ローザ准尉が東の丘に聳え立つ一夜城を、親の仇のごとく鋭く睨みつける。
(さあ……太一様のそのマネジメントで、あのヴィネをひねり潰してやってくださいまし!)
その隣で、リンの瞳にも静かな闘志が灯っていた。
「この城の雰囲気、我がアーメリアの騎士の間でも聞いたことがあります。突如として前線に敵城が現れ、戦略的価値がなくなると翌日には霧のように消え失せるという、幻の城の噂を」
「そんな戦場の噂話、まともに聞いてはいませんでしたが……現実に目の当たりにすることになるとはな」
太一は顎に手を当て、冷徹にその威容を観察する。
「今度は、こちらが敵を誘い出してあの城を奪えないか。各々方、意見を」
太一が突如として軍議を開始した。
「しかし、敵の総数も魔女の特性も不明です。あまりに危険では?」
リンが慎重な意見を述べる。
「いきなり敵の城を奪うとは……相当な損耗を覚悟せねばなりませんわ」
(ああ……ですが、あなた様となら地獄の果てまでお供いたしますわ!)
口と言葉が真逆のローザに対し、アマリアは開き直ったように鼻を鳴らした。
「軍略など、あたしにはこれっぽっちも分からん! 好きにせよ!」
沈黙が流れる中、冒険者のリュックが控えめに口を開いた。
「……正面から整列して、正々堂々と立ち向かうフリをしてみてはどうでしょう?」
その言葉が引き金となり、太一の脳内に一本のプラン……もとい、戦略の道筋が鮮明に描き出された。
「……決まりだ。正面から立ち向かい、敵をある程度一掃したところで、敗北を装って敗走する。敵を昨夜のメフィストフェレスの陣跡まで誘い出すんだ。その隙に少数精鋭で空になった一夜城を奪取する。退却先で追撃してきた魔王軍を三方から包囲し、一気に叩く。……どうだ?」
「連日、胃の痛くなるようなギリギリの戦いが続くのう……」
アマリアが溜息をつく横で、城主ドリアルが深く頷いた。
「ローザ准尉。我ら正規兵では到底思いつかぬ策だな。敵に背を向けるのが前提の軍略とは」
「はっ、ドリアル様。ですが……今の我々に残された道は、その賭けに乗ることくらいですわね」
太一の「常識外れ」のマネジメントが、ついに魔女ヴィネの築いた巨大な壁へと牙を剥こうとしていた。




