第28話 一夜城と狂気のマネジメント
第28話 一夜城と狂気のマネジメント
長い、あまりに長い夜が明けようとしていた。
リュックの到着から遅れること数時間。太一、リン、ローザ、そして城主ドリアル率いる本隊が、ようやく野戦病院へと入城を果たした。
そこは城と呼ぶにはあまりに粗末な、木の柵と土塀を組み上げただけの陣地であった。それでも、アマリアは意気揚々と声を張り上げている。
「見たか太一! そなたの力を借りずとも、あたしが一晩守り切ってやったぞ!」
実際には敵の攻撃が散発的であったおかげなのだが、彼女の興奮は収まりそうにない。
「……メフィストフェレスが退却したことで、魔王軍はこの出城の攻略を諦めたのか?」
太一は周囲の状況を把握すべく、即座にモニタリングを開始した。
「ハーッハハ! 太一のアセスメントも当てにならんな! 本気で攻めるなら、騎士の大半が抜けた昨夜のうちに攻め落としているはずであろう!」
「とにかく、守備隊にレーションを配りましょう」
ローザが荷台から食料の箱を運び出し、リンとリュックがそれを手伝う。城主ドリアルもアマリアの功績を称え、計画の継続を宣言した。
「流石はアマリア様。このままここを強固にし、敵の侵攻を抑えつつ、ドリアル城に救護施設を完成させましょう」
すべては予定通り。太一のマネジメント通りに世界が動き出したかに見えた。
しかし――東の地平線から朝日が昇り始めたその時、守備隊の間に戦慄が走った。
「な……なんだ、あれは……!? あんなもの、昨日はなかったぞ!!」
太一の設計図に、決定的な亀裂が入る。目の前の丘には、昨日まで存在しなかった重厚な石造りの城が、傲然とそびえ立っていた。太一たちが作り上げた野戦病院を遥かに凌駕する、強固な城塞である。
「魔王軍……ただの脳筋パワータイプではなさそうじゃの……」
アマリアがぺたんと腰を抜かし、床に座り込んだ。
「この距離なら、投石も火矢も容易に届く……」
ローザが苦々しく舌を巻く。
「リュック、こちらの弓は向こうへ届くのか?」
アマリアの問いに、リュックは青ざめた顔で首を振った。
「向こうは丘の上。地の利はこちらにはありません!」
絶望的な沈黙が流れる中。
「……ふふ、ふふふふ!」
突如として、太一の口から笑いが漏れた。込み上げる感情を抑えきれないといった様子だ。
「どうした、太一殿? 乱心したか?」
ドリアルが不安に駆られた表情で太一を見る。
「いえ……思い通りにいかない時こそ、楽しくなるのです」
「太一よ、流石に不謹慎だぞ?」
嗜めるアマリアを他所に、太一の瞳には異様な光が宿っていた。
「リハビリでも、看護でも、介護でも、マネジメントをしていても……どこかで歯車が噛み合わなくなる瞬間がある。そんな時、狂気じみた空気が流れた時こそ――一番面白いんです」
太一にとって、この圧倒的な脅威はもはや恐怖の対象ではなかった。彼は狂気にも似た冷静さで、かつての経験則に基づき、目の前の城をモニタリングし、アセスメントを行う。
そして、新たな計画の原案をその脳内に弾き出し始めた。




