第2話 ヒーラー二人の夜明け
第2話 ヒーラー二人の夜明け
闇夜に放り出された太一とアマリアを待っていたのは、フクロウの鳴き声が不気味に響く深い森であった。
「お、おい。俺を前に出すなよ。ヒーラーは後衛が定石だろ?」
「あたしもヒーラーよ! 男子ならそこらの棒切れでも持って戦いなさいよ!」
アマリアの無茶苦茶な言い分に呆れる太一。その時、茂みがガサガサと不穏な音を立てた。
震えるアマリアが、ひときわ高い声を上げる。
「や、やばい……。女神最大の敵、アンデッドよ!」
暗闇からガチャガチャと鎧を鳴らし、腐敗臭を放つ怪物が姿を現した。
「グエェ! 汚ねぇ! 出たあ! イヤーッ!」
「どうするんだよ! 戦いなんて……っ!」
太一の躊躇をあざ笑うかのように、アンデッドの爪がその身を切り裂いた。
「いてぇ! おい、なんとかしろよ! 女神なんだろ!?」
「だからあたしはヒーラーだってば!」
混乱の中、太一は半ば破れかぶれで右手を突き出した。
「ええい、とりあえず……ヒール!!」
太一の手から放たれた聖なる光が、アンデッドを包み込む。
シュワアアアー、という浄化の音が響いた。
すると、醜悪な怪物の背後に、かつて人間だった頃の気高き騎士の幻影が浮かび上がった。騎士は安らかな笑顔を浮かべ、涙を流しながら霧散していく。
「お……」
「な、な……。やるな、太一よ」
呆然とするアマリアに、太一は冷静にツッコミを入れた。
「女神様? アンデッドにヒールが特効なんて、基本中の基本だろ。知らなかったのか?」
「し、知るかー! こんな現場に来たこともないし、女神が戦うわけなかろう!」
どうやら、敵を倒したことで太一のステータスに変化があったようだ。
「よし……今のでレベルが上がった。初期設定が低いから上がりやすいのか。とりあえず、ここのアンデッドを狩りまくってレベルを上げておくぞ。手伝えよ、アマリア!」
「くっ……女神を呼び捨てにするなど……。彼氏にさえ呼ばれたことはないのに! 居たこともないけど!」
太一は新たに『リジェネ』のスキルを習得した。自動回復を付与しながら戦えるようになった二人は、ようやく森を抜け、一つの街へと辿り着く。
街の宿屋へ向かう道中も、アマリアの不満は止まらない。
「ひええ……く、くせえ……。女神をこんな不浄な場所に連れてくるとは。やはりお前を地獄へ送っておけば良かったわい!」
「ひでぇな! 俺だって好き好んでここにいるわけじゃ……!」
夜中の口喧嘩に、街の窓からポツポツと明かりが灯る。
「静かにしろって!」
「太一こそ!」
宿屋に駆け込んだものの、空室はわずか一部屋であった。魔王軍との前線が近く、街は冒険者や傭兵、騎士団で溢れかえっているという。
狭い部屋で、アマリアは太一を鋭く睨みつけた。
「太一……お前はこれまで女子を泣かせてきた前科がある。間違っても女神に手を出すなよ。その時は本当に……」
「あーあー、うるせえ! もう寝かせてくれ。車に跳ねられ、ゾンビと戦い、変な女神に付きまとわれ……もう限界だ。おやすみ……」
太一は泥のように眠りについた。
しかし、翌朝。目覚めた二人が街の様子を目にした時、その表情は驚愕に染まることになる。




