第16話 前線野戦病院と女神の煽り
第16話 前線野戦病院と女神の煽り
太一たちは休む間もなく、前線のドリアル城へと帰還した。城主ドリアルに対し、皇帝陛下から正式な建設許可が降りたことを報告する。しかし、書面の上で許可が出たところで、現実は非情であった。
「ううむ……実際、建設にあたって人足が全く足りんのだ」
ドリアルの悩みはもっともであった。魔王軍の侵攻を防ぐのに軍は手一杯。立派な施設を建てる余裕など、戦の素人が見てもどこにもなかった。
「太一よ、どうするのじゃ? さすがのそなたも、こればかりは魔法で建てるわけにはいかんだろう」
アマリアの問いに、太一は不敵な笑みを浮かべた。
「……ふん。インドア派を舐めるなよ。中が作れないなら、現場を広げればいいだけだ。まず前線に『出城』を築き、そこに野戦病院を建てる。そこで傷病兵を食い止め、ドリアル城まで下げない仕組みを作るんだ。その間に、ドリアル城の救護施設とラスクの精神病棟を並行して建設する」
リンがその意図をいち早く察し、膝を打った。
「なるほど……! わざわざドリアル城まで下げずとも、前線基地で回復させながら戦えば、戦力を維持しつつ城側の建築も捗るというわけですね!」
(……流石はイエローハートの太一様。なんて合理的な……じゅるり)
ローザは熱を帯びた瞳で、太一の全身を舐めるように見回した。
「よし、リン、ローザ。君たちは人足を集めてくれ。俺とアマリアは一足先に前線へ向かい、即席の救護所を設置してラインを押し戻す!」
「よし、太一よ。やる気になっておるな! さあ取り掛かるぞ!」
太一とアマリアは前線への道中、後退してくる友軍を次々と足止めした。傷を癒やすだけではない。軽傷と判断すれば、即座に前線へ連れ戻すという徹底した「現場復帰支援」である。
中には「もう戦いたくない」と泣き出す冒険者もいたが、アマリアは容赦なかった。
「ふふふ……そんな泣き虫には『バーサク』を付与してやろう! 二十四時間戦い続けい!」
「……おい、回復の女神が無茶させてるが、今は一人でも兵が必要だ。頼むぞ!」
あの飛翔の悪魔ゲルゾラーダを倒した「イエローハート勲章」のパーティが前線に来た。その報せは、瞬く間に兵士たちの間に広まり、どん底だった士気を一気に跳ね上げた。
「ほう……ようやくこのあたしの魅力に気づき始めたか、男ども! あたしが来たからには前線を押し上げるぞ! いざ、突撃じゃーー!!」
「うおおおーーーー!!」
女神の煽りに乗せられた兵士たちの叫びが、荒野に響き渡る。
ケアマネジャー天城太一が提案した「攻めの看護」が、今、魔王軍を圧倒し始めた。




