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スキルが「ヒール」で被った女神と俺。攻撃手段ゼロの異世界ケア ~「治ったから戦え」はブラックすぎます。まずはリハビリ3ヶ月、ADLの向上から始めましょう~  作者: A古町
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第13話 湖畔の野営と見えない魔王

第13話 湖畔の野営と見えない魔王

 一行が湖のほとりに差し掛かる頃、ちょうど日は山の端へと隠れようとしていた。


「太一様、本日はこのあたりで野営いたしますが……」


 ローザの提案に、太一は渋々ながらも頷いた。


「全く、そんな弱腰ではこの異世界では生きてはいけませんよ?」


(……なんと、野営の経験さえないとは! きっと相当に高貴な家柄の生まれに違いないわ。ああ、貴族的な太一様も素敵……!)


 ローザが内心で身悶えしていると、ぐうぐうと腹の虫を鳴らしたアマリアが口を開いた。


「夕飯はどうするのじゃ、ローザよ。あたしはもう限界じゃぞ」


「確かに、そろそろお腹が空きましたね」


 リンも同意する。ローザは静かに湖を指差した。


「……ここに夕飯が泳いでいますわ」


 ここで釣れなければ飯はない。そう言わんばかりの鋭い眼光で湖を睨むローザに、アマリアが毒づく。


「初日の晩飯くらい、何か持ってくるべきであったな」


「ふふ。まあ、ここの湖の魚は旨いと聞きます。やってみましょう」


 リンが場を和ませる中、ローザは馬車から釣り竿を取り出し、慣れた手つきでミミズを針に突き刺した。現代日本で虫一匹殺したことのない太一は、その光景を顔を引きつらせて見守る。彼にとって、ゾンビとの戦いを除けばこれが異世界での「初めての殺生(?)」に近い体験であった。


「さあ」とローザから竿を渡された太一だったが、湖は驚くほどに豊かであった。


 意外にも入れ食い状態となり、一人頭三匹は確保できる釣果となった。


 魚に塩を振り、ローザが火の魔法『ファイア』で焚き火を熾す。


「ほう、流石は軍人。剣も魔法も卒なくこなすのう」


 アマリアの賞賛に、ローザは鼻を鳴らした。


「……ヒールの神などに褒められてもな」


「くー! お主が怪我をしても、絶対回復してやらんからな!」


(ふふ、そうなれば太一様に回復してもらうまで……。ああ、一体どんな魔法を私にぶち込んでくださるのかしら……!)


 パチパチとはぜる焚き火を囲みながら、太一はローザから情勢を聞き出した。


「現在、ドリアル城は帝国領の最東端に位置します。そのさらに東は荒野ですが、一ヶ月ほど前、恐ろしい魔王が復活しました。奴は神出鬼没。そして何より、正体不明の恐ろしい魔法を使うというのです。その本質を『見た』者は一人もいません」


「それって……どういうことだ?」


「ええ。その魔王の前で、生きて帰れた者がいないからです。当初は善戦していましたが、日に日に強くなる魔物の群れは、おそらく魔王の強化バフを受けているのでしょう」


「そこで同盟国である我がアーメリアにも要請が来た、というわけね。私は大人数で動くより、ここでみんなと行動する方が性に合っているけれど」


 リンが静かに付け加えた。


「そうか……。まあ、難しい話はおいおいにしよう。今日は長旅で疲れた、もう寝るぞ」


 アマリアが早々に寝息を立て始めると、焚き火に照らされたリンとローザの頬が、心なしか赤らんで見えた。


 太一が焚き火に枯れ木を放り込む。


(ドキドキ……)


 リンとローザの胸が高鳴る。静寂の中、何かが起きるのではないかと期待に胸を膨らませる二人。しかし。


「……俺もそろそろ。おやすみ」


 太一もまた、あっさりと横になり寝息を立て始めた。


 残されたリンとローザは顔を見合わせ、深い溜息をついた。

「……おやすみなさい」

 異世界の夜は、静かに更けていった。

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