↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/3

第二話 悪役令嬢と未来日記

 第二話 悪役令嬢と未来日記


「あー今日も暇だなぁ……」


 リクトはカウンターに突っ伏していた。


 不思議アイテム屋に就職して一か月。


 そろそろ接客にも慣れてきた。


 だが暇な時は暇だった。


 客が来ない日は本当に来ない。


 だから彼は店長や美咲の観察をするようになった。


 現在。


 店長は店の奥で掃除をしている。


 相変わらず縦じま模様の制服だ。


 そして。


 美咲は床の上で寝ていた。


「先輩」


「んー?」


「寝てますよね」


「休憩中だよー」


「床で?」


「床で」


 不思議アイテム屋は今日も平和だった。


 その時。


 カラン。


 ドアベルが鳴る。


 客だ。


 リクトは立ち上がった。


 入ってきたのは若い女性だった。


 金髪。


 高級そうなドレス。


 そしてやたらと険しい表情。


 どう見ても貴族である。


 しかもかなり偉い。


「いらっしゃいませ!」


 リクトが頭を下げる。


 しかし女性は余裕がなかった。


 店内に入るなり机へ身を乗り出した。


「未来を知る方法はありませんこと!?」


「えっ」


「未来ですわ!」


「いきなりですね」


 美咲も起きた。


 寝癖付きのまま近寄ってくる。


「どうかしたの?」


 女性は慌ただしく語り始めた。


 名はレティシア。


 公爵令嬢。


 最近になって不思議な夢を見るらしい。


 婚約破棄。


 断罪。


 国外追放。


 処刑。


 まるで自分の人生が最悪の結末へ向かうような夢。


「悪役令嬢っぽいですね」


 リクトが呟く。


「最近多いよねー」


「そうなんですか」


「うん」


 美咲はうんうん頷いた。


 経験者みたいな反応だった。


 レティシアは切実だった。


「もし夢が本当なら」


 拳を握る。


「わたくしは破滅しますわ」


「うーん」


 美咲は考える。


 それから。


 棚へ向かった。


 しばらく探し回った後。


 一冊のノートを持ってきた。


 黒い表紙。


 古びた装丁。


 商品名。


 未来日記。


「これかなー?」


「未来日記?」


 リクトが説明書を見る。


 そこにはこう書かれていた。


 翌日以降の未来が毎日自動で記載される魔法の日記帳。


「すごい」


「便利ですね」


「便利そうだよね」


 三人で頷いた。


 レティシアは震えていた。


 希望を見つけた人の顔だった。


「これがあれば」


「未来が分かるよー」


「破滅も避けられますわ!」


 彼女は即購入した。


 代金を払い。


 深々と頭を下げる。


「ありがとうございます」


「いえいえー」


 美咲は笑顔だった。


「頑張ってね」


 そして。


 レティシアは店を後にした。


 カラン。


 ドアベルが鳴る。


 リクトは感心していた。


「未来が分かるってすごいですね」


「そうだねー」


「僕なら宝くじ買います」


「私はテストで使うかな」


「学生ですね」


 元女子高生である。


 数か月後。


 再びレティシアはやってきた。


 店に入った瞬間。


 リクトは驚いた。


 以前と全然違う。


 華やかだった。


 綺麗だった。


 そして幸せそうだった。


「すごい」


「どうなったんですか?」


 レティシアは笑う。


「全て上手くいきましたわ」


 婚約破棄は回避。


 敵対者は事前排除。


 投資も成功。


 事業も成功。


 社交界でも人気者。


 まさに順風満帆だった。


「よかったですね!」


「はい!」


 リクトも嬉しくなる。


 商品が役に立った。


 それは店員として嬉しいことだ。


 レティシアも満面の笑みだ。


 しかし。


 なぜか。


 少しだけ疲れているようにも見えた。


「そうだ」


 彼女は突然本を取り出した。


 未来日記だった。


 だが。


 分厚くなっている。


 異様なほどに。


「もう十冊目ですわ」


「え?」


「十冊?」


 レティシアは当然のように言った。


「毎日読んでおりますので」


「毎日?」


「もちろんですわ」


 リクトは少し驚いた。


 だが未来が分かるなら当然かもしれない。


 レティシアは微笑む。


「未来を知れば失敗しませんもの」


「なるほど」


「今日の服装も」


「はい」


「会話も」


「はい」


「食事も」


「はい」


「全部未来日記通りですわ」


 リクトは首を傾げた。


 それでいいのだろうか。


 だがレティシアは満足そうだった。


「では失礼いたしますわ」


 そして帰っていく。


 カラン。


 ドアベルが鳴る。


「成功例でしたね!」


 リクトは嬉しそうだった。


 だが。


 美咲だけは窓の外を見ていた。


「先輩?」


「んー?」


「どうしました?」


 美咲は少し考える。


 それからぼんやりと言った。


「なんだろうね」


「はい」


「未来を知るのは便利だけど」


「はい」


「今日を楽しめてるのかなーって」


 リクトには意味が分からなかった。


 だが。


 その数年後。


 レティシアは完璧だった。


 あらゆる選択を外さない。


 あらゆる失敗を避ける。


 あらゆる危険を回避する。


 誰も彼女に勝てなかった。


 だが。


 誰も知らなかった。


 彼女が。


 未来日記に何も書かれていない日には一歩も動けなくなっていたことを。


 食事すら。


 会話すら。


 決定できなくなっていたことを。


 そして今日も。


 不思議アイテム屋の店内では。


「役に立ってよかったですねー」


 とリクトが笑い。


「うん、よかったよかった」


 と美咲が笑っていた。


 もちろん二人はまだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。