第一話 追放勇者と絆の指輪
前作からの変更点
前作主人公:私→美咲
店長:→女性から男性へ
なにぶん前作はかなり前の作品なのでご容赦ください
第一話 追放勇者と絆の指輪
「あー今日も暇だなぁ……」
店のカウンターに頬杖をつきながら呟いた青年がいた。
名前はリクト。
異世界転移して二週間。
職業は新人店員。
勤務先は不思議アイテム屋さん。
普通なら異世界転移した人間は勇者になったり冒険者になったりするものだが、彼の場合は気付いたら店員になっていた。
もっとも本人は割と気に入っていた。
なにせ職場が面白い。
店そのものが面白い。
商品も面白い。
客も大抵面白い。
そして何より。
働いている人達が面白い。
「リクト君、レジの練習した?」
店の奥から声が聞こえる。
長い黒髪。
優しそうな目。
少しだけ天然っぽい雰囲気。
元女子高生。
元魔王討伐者。
現不思議アイテム屋店員。
花咲美咲だった。
「やりましたよ先輩」
「えらいえらい」
「犬じゃないんですけど」
「そっかー」
本当に分かっているのか怪しい返事だった。
美咲は数年前、この店の商品で色々な騒動を起こしながら異世界を旅し、最終的に魔王を倒した人物らしい。
らしいというのは本人が全然偉そうにしないからだ。
店長から聞くまでリクトは知らなかった。
ちなみに店長はいつもの縦じま模様の制服を着た女性である。
相変わらず何を考えているのかよく分からない。
「店長ー」
「はいはい」
「先輩って本当に魔王倒したんですか?」
「ええ」
店長は頷く。
「すごいでしょー」
美咲も頷く。
「うんうん」
「他人事みたいですね」
「だって大変だったし……」
美咲は遠い目をした。
リクトにはよく分からなかった。
その時だった。
カラン。
店のドアベルが鳴る。
客だ。
入ってきたのは一人の剣士だった。
傷だらけの鎧。
疲れた顔。
どこか険しい目。
そして絵に描いたような主人公待遇を受けそうな雰囲気。
「あっ」
美咲が呟いた。
「追放された人っぽい」
「見ただけで分かるんですか」
「なんとなく」
当たっていた。
剣士はカウンターの前まで来ると力なく笑った。
「何か良いアイテムはないか」
「どんなお悩みですか?」
リクトが尋ねる。
剣士は少し迷った後で語り始めた。
勇者パーティ。
長年の旅。
仲間達との絆。
魔王討伐直前。
そして追放。
どこかで聞いたことのある話だった。
「俺は復讐がしたいわけじゃない」
剣士は俯く。
「ざまぁしたいわけでもない」
「はい」
「ただ」
声が少し震えた。
「もう裏切られたくないんだ」
リクトは黙った。
少しだけ分かる。
信頼していた人に裏切られるのは辛い。
美咲も静かに聞いていた。
「あったかなぁ」
そう呟きながら棚の方へ歩いて行く。
しばらくして一つの箱を持って戻ってきた。
「これかな?」
中には銀色の指輪。
説明書が付いている。
商品名。
絆の指輪。
リクトが説明書を読む。
装着者と強い絆を結んだ者は決して装着者を裏切れなくなる。
「すごい!」
リクトは素直に驚いた。
剣士も目を見開く。
「本当に?」
「多分大丈夫だと思うよ」
美咲が頷く。
「この店の商品だし」
「その説明雑ですね」
「だって本当だもん」
店長まで頷いていた。
「品質保証済みです」
どこまで保証しているのかは分からない。
だが剣士は迷わなかった。
即購入だった。
「ありがとう」
その顔には久しぶりの笑顔が戻っていた。
「これでまたやり直せる」
そう言って店を出ていく。
カラン。
ドアベルが鳴る。
そして数か月が過ぎた。
その間も店には様々な客が訪れた。
そんなある日。
美咲が新聞を持ってきた。
「リクト君リクト君」
「なんです?」
「見て見て」
記事には見覚えのある顔が載っていた。
あの剣士だった。
「うわ、大活躍じゃないですか」
新パーティ結成。
難関ダンジョン制覇。
領主から表彰。
王都で話題沸騰。
順風満帆だった。
「よかったねー」
美咲も嬉しそうだ。
リクトも嬉しかった。
自分が売った商品で誰かが幸せになった。
店員冥利に尽きる。
だが。
その記事の片隅に小さな記述があった。
仲間達との関係は極めて良好。
意見の対立は一度もなし。
トラブルもなし。
離脱者もなし。
「すごいですね」
リクトは感心した。
冒険者パーティで喧嘩がないなんて奇跡だ。
「そうだねー」
美咲も笑う。
その時だった。
カラン。
再びドアベルが鳴った。
入ってきたのは。
あの剣士だった。
だが。
様子がおかしい。
痩せている。
顔色も悪い。
目の下には隈。
まるで何日も眠っていないようだった。
「大丈夫ですか!?」
リクトは慌てて駆け寄る。
剣士は無理に笑った。
「大丈夫だ」
全然大丈夫ではなさそうだった。
「何かあったんですか?」
剣士は少し黙った。
それから。
静かに呟く。
「誰も裏切らないんだ」
「それは良い事じゃ……」
「そうだ」
剣士は頷く。
「誰も反対しない」
「……」
「誰も怒らない」
「……」
「誰も本音を言わない」
店内が静かになる。
「俺が間違っていても」
剣士は笑う。
「全員賛成するんだ」
リクトには意味が分からなかった。
仲が良いのなら良いことじゃないのか。
剣士はそのまま店を出ていった。
カラン。
ドアベルが鳴る。
リクトは疑問顔のままだった。
「なんだったんだろ」
「うーん」
美咲も首を傾げる。
どうやらよく分かっていないらしい。
やがて美咲はいつもの笑顔に戻った。
「でも元気そうでよかったね」
「そうですね」
リクトも笑った。
少し変だったけど。
きっと大丈夫なのだろう。
店の商品はちゃんと役に立ったのだから。
そしてその頃。
遠い街では。
誰にも本音を言われなくなった勇者が。
今日も一人で正解の分からない決断を続けていた。
もちろん。
店で笑う二人はそのことをまだ知らない。




