第9話 不測の事態?
「あたしはね……彼は、もともと戦いたくなかったんじゃないかって気がするの」
青柳の分を含めたコーヒー二杯は、既に空になっている。ハンバーグ二切れを青柳に与えたせいか、まだ小腹が空いている。
「青柳少尉も、何か注文する?」
「あ、妾は大丈夫です」
そうは言っても、どうせ御堂の食べている様を見れば涎を流すのが予想できた。大きめのパンケーキを注文しておく。
「上官からの命令とかでさ。やりたくなかったけど、無理矢理やらされたんだと思うのよ。だから、自機が動けなくなって『もう戦わなくていいんだ』ってことになって、むしろ彼は安心して降伏したんじゃないかな」
敵のパイロットを、敢えて御堂は「彼」と呼ぶ。それは、御堂が「明確な害意を感じなかった」からだ。
「それで?」
「……え?」
青柳の声はあまりにも無機質なものだった。御堂なりに、青柳の「心を動かそう」と言葉と紡いだつもりであったから、感情のない青柳の物言いには「ハシゴを外された」ような感覚がした。
「所属章を偽装した事実は変わりませんけど?」
「そう……なんだけどさ」
ホットミルクを飲み終えた青柳は、カップを皿に戻した。カップから離れる指の動きに艶めかしさがある気がする。
「あ……あのさ。青柳少尉は『あのB級機体が、自爆するつもりで投降した』って思ったわけでしょ。だから、パイロットを処分しろって言ったんだよね。だからさ……『あのB級機体が、自爆するつもりはなかった』と言うなら、パイロットは処分しなくても良かったんじゃないか……って言う意味で……」
御堂なりに、何とか論理的な説明になるように必死に言葉を選ぶ。そんな御堂に対して、青柳は顔を向けなかった。細めた双眸が、横目で御堂を捉えているだけだ。
「御堂少尉の考えは、前提条件が間違っています。『卑劣な戦闘行為』を行った敵だから処刑するのです。B級機体の自爆の可能性は、戦場で想定すべき不確定要素の一つに過ぎません」
赤い舌が上唇を舐めた後、青柳は眸を伏せた。暫し、何かを考える素振りをする。
「でも、御堂少尉の違反行動の理由がわかりました。妾の指示が、御堂少尉の判断を誤解させる言い方だったようです。以後、注意します」
青柳は改めて御堂に向き直ると、ゆっくりと頭を下げた。
「誤解を招く指示を出してしまいました。申し訳ありません」
「え?」
青柳の対応に、御堂が面食らっているうちに注文したパンケーキがテーブルに届いた。それを見た青柳の目が、輝く。
青柳が、やはりパンケーキを欲しがる予想だけは当たった。




