第8話 青柳礼子
「怒らせちゃったかなぁ……」
鈍感な御堂にも、カイザーが気分を害して席を立ったのは察することができた。
「怒って当然ですよ」
青柳は、ホットミルクのカップを両手で包み口元に運んでいる。その声は、意外と暢気な感じだった。
「A級0061機の左上腕部の修理は、ラインゴルドの負担で行われます。万が一、敵B級の自爆攻撃を受けていたら……最悪A級機体を喪失していた可能性も高いです。そうなった時の、ラインゴルドが第4戦団に補償する弁償金は、膨大な額になりますからね」
「お金の問題だけ?」
青柳の考察に、思わずツッコミを入れてしまう御堂。
その青柳は、上唇についた白い液体を伸ばした赤い舌で舐め取っている。
「……」
小柄で童顔なために「子供っぽい」印象を与えがちな青柳だが、実は動作一つ一つに淫靡さが見え隠れするのだ。カップに添えている両手の指の形も、それなりの男性経験を有する御堂をドキリとさせる。
(この娘、わざとやってるんじゃないか?)
青柳と一緒にいると、いつもそんな疑惑が御堂の脳裏を過るのだ。
青柳は、御堂と違って士官大学には行っていない。高校卒業の後、18歳で近衛軍に入った。
早い段階で、重甲機兵のSユニットとしての特性を認められたために付属の研究機関で英才教育を受けてきたと聞いている。その過程で「軍務に忠実である」ようにと洗脳に近い刷り込みをされているのだと御堂は思っている。
Cユニットの天才である御堂と、Sユニットのエリートである青柳は、それなりに良い組み合わせに思える。
何より、命令違反の常習者である御堂を抑止するためには適切な人選であった。
「青柳少尉はさぁ……あの敵のB級機体が、自爆する計画で投降したと思ってる? 本気で?」
「思ってますよ。それ以外、合理的な説明がありません」
……合理的?
「本質的に『星間協定』は違反する者への対処は厳しいんです。違反者への報復は、無制限かついかなる法の制約も受けません。帝国近衛軍であれば、即時処刑です」
法や協定に従わない者は、法や協定に縛られる者に対して常に優位に行動できる。法や協定に、実効性を確保するための対応である。
「所属章を偽装した『卑劣な戦闘行為』を行った以上、敗北すれば処刑されるのはわかっていたはずです。処刑されるのが明白なのに、なぜあっさりと降伏するんですか?」
それは……と言いかけたが、考えが上手く整理できない。
「あの時点で、あのパイロットが生き残る唯一の策は……A級0061機を行動不能にすることだけです」




