第10話 戦闘記録
食堂を出たカイザーは、その足で重甲機兵の整備工廠へ向かう。
野球のスタジアムと同等な広さを有する空間には、唸るような重い駆動音が響いていた。そこに、逆三角形の体躯をした白い機体が片膝を付いている。
真上に近い角度で差し込む午後の陽光に照らされる白い装甲板……その胸部には、大鎌を持つ髑髏の紋章が描かれていた。
死神をイメージしたラインゴルド傭兵機団の機団章である。
白い機体の頭部が動き、機械眼球がカイザーを捉える。
カイザーが右手を上げると、胸部装甲が展開した。胸部奥のコクピットから、ワイヤーを伝って降りて来たのは若い女性兵士である。
「御堂機の戦闘記録の確認作業は終了しました」
御堂よりも、もう少し若い女性兵士は、カイザーに敬礼する。
「ご苦労だった。ベルーナ、お前の感想はどうな感じだ?」
ベルーナが女性兵士の名前である。カイザーの元に預けられている新米の重甲機兵Sユニットである。
重甲機兵の戦闘記録は、他の機体で再生することで「状況を追体験」することできる。ベルーナは、赤龍の洞での戦闘を「青柳の立場」で検証していた。
「青柳少尉の状況分析と機体の設定はすごいです。事前の情報を得ていたとは言え、赤龍の洞と言う特殊な戦場でも、適切なモード調整を行っていました」
電磁波や光学によるセンサー類が利かない重甲機兵は、目視と音で周囲の状況を把握しなければならない。しかし、陥没したカルデラ地形の赤龍の洞では、周囲を切り立った岩肌に囲まれているため音の反響が複雑なのだ。更に、足場となる地面も、降り積もった砂が柔らかい。推進装置による姿勢制御も神経を使う。
「ほう、さすがだな」
ベルーナが絶賛するのを聞き「帝国近衛軍の研究施設で英才教育を受けただけのことはある」と感心するカイザーだが、気になっているのはそちらではない。
「Cユニットの方は?」
「……はあ」
言い淀む……と言うよりも、ベルーナは困惑の表情をした。
「まず。ラインゴルドと第4戦団の共同作戦に、事前連絡なしでの第1戦団の援軍は有り得ません。あれに騙されるのは軽率です」
新米兵士のベルーナから「軽率」と、御堂は言われてしまう。
「その後の戦闘における対応は、目を見張るべきものがありますが……どうにも作戦行動に対する責任感が根本的に欠如しているとしか思えません」
音声記録の中で、御堂は3回「大丈夫」と発言し、青柳の指示を聞き流している。
「ふむ。何を持って『大丈夫』と判断したのかな」
「知りません!」
カイザーの問いに、ベルーナはぶっきら棒に答えた。




