第4話 緊急離脱
スクリーンの中央で、敵の白い鋼巨人が擱座した。
戦闘が決着したと判断した御堂は、左上腕部の損傷を調べる。軽く左腕を動かし機体の左腕が追従するのを確認して、Cユニットに鳴り響く警告音を解除した。
「B級ジークフリード型重甲機兵、一機を撃破」
コクピット内での発言は、戦闘記録の音声レイヤーに自動的に記録される。戦闘経過を口に出すのは、パイロットの習性になっていた。
すると、ついさっきまでの青柳と交わした「浮かれた気味な発言」も記録されている。それを思い出した御堂は、急に恥ずかしくなって頬が熱くなった。
擱座した敵・B級ジークフリードの胸部装甲が展開した。コクピットは胸部奥にある。パイロットが、機体の外へ出てくるのだろう。
『投降は容認できません。この場で、敵パイロットを処分して下さい』
「え?」
青柳が何を言っているのか、御堂には理解できなかった。
敵のB級ジークフリードは投降したのだ。投降の意思を示した敵兵を虐待するのは、それこそ『星間協定』が禁止する「残虐な戦闘行為」である。
『星間協定で禁止される卑劣な戦闘行為を行った者には、法の保護はありません。そして、そのような卑劣漢が、素直に投降するはずもありません。何らかの罠が仕掛けられていると考えるべきです』
「……でも」
罠なんてあるはずがないじゃん!……それは御堂の直感だった。
「大丈夫、罠なんてないから」
ついさっき、偽装された所属章に騙されたばかりの御堂の直感を、青柳が信用するはずはない。根が善良な御堂と作戦行動を最優先する青柳の間に、沈黙が生じる。
「……」
その間に、敵のパイロットは、胸部奥のコクピットからワイヤーを伝って地面に降りていた。それを見た青柳は、その場で決断せざるを得なかった。
『ちぃ!』
青柳の舌打ちが、ヘッドセットを通して御堂の耳朶を打つ……刹那、Cユニットの照明が落ちる。
「え……今度は、なに?」
続けて、強烈なGに襲われる御堂の身体は、操縦席に沈み込む。暗がりの中での重圧は、御堂の不安を増幅させる。ヘッドセットからは、青柳の声も聞こえない。
「青柳少尉! 青柳少尉! 青柳少尉! 青柳……」
Gに押さえ込まれながら、青柳の名を呼ぶのは舌を噛みそうだった。しかし、それしか今の御堂にできることはない。
青柳が、機体とCユニットとの接続を解除したのである。御堂は運動操縦者の権限を失っていた。
A級0061機は、脚部および腰部のスラスター全開で、その場から即座に離脱したのだ。敵の罠を警戒する、青柳の判断である。




