第29話 デリカシー?
「連邦勢力の軍は、赤龍の洞から完全に撤退しました」
「では、今回の戦闘は終結ですね」
御堂と青柳は、ラインゴルド傭兵機団の仮本部であるS33中継基地の食堂で指揮官のカイザーから戦況報告を受けていた。
三人の前にはハンバーグ・ランチが届いていた。
「連邦勢力軍とて虎の子のA級ペルセウス二機を、一気に撃破されるとは想像していなかったでしょう。貴女方の活躍には、嵯峨州評議会から感謝の言葉が届いています」
「ありがとうございます」
返事を返しているのは青柳だけで、御堂はずっと押し黙ったままである。
カイザーは二人に食事を促した。青柳は直ぐにハンバーグをパクついたが、御堂は両手を膝に置いたまま動かない。
遠江州を占領した連邦勢力軍は、次の目標を嵯峨州に定めていた。『赤龍の洞での戦い』は、嵯峨州を守るための防衛戦であり、敵軍を完全撤退まで追い詰めたことは「勝利」以外の何ものでもない。
御堂にとっては、近衛軍の正規兵となってからの記念すべき初撃破と初勝利でもある。しかし、ラインゴルドでそれを祝ってくれる者はいなかった。
傭兵であるラインゴルドには、戦いの継続が「経済活動」である。
「二機目のA級ペルセウス……その両腕を切り落とした時点で、あの機体は戦闘力を失っています。寧ろ、そのまま撤退させて『戦争そのものは続けてくれる』形が、ラインゴルドにとっては有益でしたよ」
カイザーの補佐役であるベルーナ柳からは、苦言とも受け取れる言葉があった。
御堂の活躍で『赤龍の洞の戦い』は決着した。しかし、その決着は「望まれた」ものではなかったらしい。
「早期に決着をつけることで、戦いの被害を最小に留める!」
それを正義と信じていた御堂には、何かを裏切られたような感覚だった。
「貴女方とA級0061機は、帝国近衛軍の第4戦団から派遣されています。貴女が、ラインゴルドの都合だけで便宜をはかる必要はありませんよ」
カイザーの「貴女」は、御堂を指している。ラインゴルドの指揮官に示された思いやりは、御堂の心に小さな安堵をもたらした。
「……はい」
カイザーに対して、今日初めて御堂は口を開いた。
「ちょっと、急用を思い出しました」
カイザーは、自分の分のハンバーグを青柳に勧めて席を立つ。この二人だけにしておこう……との配慮である。
ベルーナの対応が「御堂少尉に辛辣すぎたか?」とも考える。
ベルーナが「御堂少尉を嫌っている」のは知っていたつもりだが、御堂の方が「ベルーナの言葉を真に受ける」ほどにデリカシーがあったのは意外だった。




