第30話 テスト・パイロット
御堂がハンバーグにナイフを入れた時には、青柳は自分の皿を食べ終わっていた。カイザーから譲られた皿を手元に引き寄せている青柳を見て「今回は肉を分け与えなくてもよさそう」と、御堂は思う。
「これで第4戦団に帰れるよね」
冷めかけた肉を切り分けながら、青柳に話しかける。
迫っていた連邦勢力軍を撃退したことで、帝国近衛軍の威信を示すと共に、嵯峨州の当面の危機は取り除いた。
「そうですね。後は、嵯峨州評議会から都市防衛を依頼されているラインゴルドの仕事です。妾たちとA級0061機は、速やかに帰還します」
「……うん」
任官して間もなくこの戦いに派遣された御堂には、第4戦団も「帰る」と言えるほど懐かしい場所でもない。それでも「戦争をビジネスと考えている」傭兵集団よりは、居心地は良い。
少なくとも正規兵となら「誰かを守るために戦う」と言う意識を共有できる気がする。
「A級0061機も、近衛軍での微調整が必要です。正式なCユニット搭乗者も選抜しないといけませんし……」
「え?」
Cユニット搭乗者とは、重甲機兵の運動系を制御するパイロットのことだ。それは、つい先日まで御堂が務めていた役割である。
「あたし、正式なパイロットじゃ……ないの?」
青柳の「正式な」の部分が、御堂の神経をザワつかせる。青柳の方は、そんな御堂を不思議そうに見返していた。
「改修したばかりのA級0061機と御堂少尉の体質が、たまたま相性が良かったから試運転のパイロットに登録されただけですよ」
「……」
御堂の、ハンバーグを切り分ける手が止まった。青柳は、御堂の顔から視線を外して、冷めたハンバーグを口に運ぶ……冷めていても、青柳の食欲には影響しないらしい。
「最初に言ったはずですよ。敵陣営にはA級機体はないから、戦場で突っ立っているだけの役目だ、って」
「でもさ、二機A級を撃破したんだし。あたしって、A級0061機と相性が抜群……だと思わない?」
A級0061の指揮権は、Sユニット搭乗者である青柳が有している。青柳が「合格」と判断してくれれば、それが優先される可能性もあるはず……。
御堂は自身のハンバーグの皿を、おずおずと青柳の方へ差し出してみた。
しかし。
「今回の勝利は、敵が御堂少尉の技量を過小評価していたから付け込む隙があったんです。A級ペルセウス二機を、同時に相手にしていたら勝てたと思いますか?」
「……」
青柳は、敵の油断を計算して戦術を組み立てていたらしい。改めて、青柳の冷徹で狡猾な一面を覗き見た気がする御堂だった。
第一章 -終わり-




