第25話 ヒット&アウェイ
御堂は動かなかった。
メイン・スクリーンのほぼ中央に映っている、A級ペルセウスにだけ意識が集中していた。
両手で握った打刀を右脇に引いて、敵機に対して左肩を突き出すように斜めの体勢で構えをとったまま……まるで凍り付いたかのように動かない。
(距離40メートル)
A級ペルセウスは、胸の高さに上げた左腕の凧型盾で、機体の喉元と鳩尾部分を隠している。
(腰を狙うよう誘いをかけてるの?)
喉元部分には、重甲機兵の各種センサー回路が集中している。鳩尾部分は、胸部に設置されたコクピットに近い。この二箇所と、バランサーのある下腹部……人体に喩えるなら丹田……が、重甲機兵のウィークポイントとされる。
赤い砂塵が舞い上がる!
A級ペルセウスが、脚部スラスターを点火したのだ。足下から吹き上げられた砂塵が、A級ペルセウスの下半身を包む。そして。
数瞬遅れて、背中が目映い光を発した。御堂は微かに顎を引き、光を直視しないよう視点を下に向ける。
(来る!)
A級0061機は右足を引いて、A級ペルセウスに対して左半身を向けている。右脇に構えた打刀の剣先は、敵機からは見えない位置にあり、間合いを正確に測れない。
間合いを読み切れないA級ペルセウスの斬撃は、さぐりを入れる程度のものだった。回避を優先するための、緩慢な踏み込みでロングソードが突き出される。
(躱せる)
ジークフリード型重甲機兵の特徴的な『大きく張り出した』肩部装甲は、最も強固な装甲板である。この肩部装甲があるから、ジークフリード型は盾を標準装備とする必要が無い。
ヌルい斬撃ならば、膝と腰の弾機を活かした僅かな動きだけで肩部装甲で受け流せる。
……ガキン!
金属音。そして鋼の身体が受けた衝撃が、御堂の身体にフィードバックされる。
(全然、大丈夫)
左肩を圧された圧迫感はあったが、それだけで痛みもない。
『左肩部、損傷ありません』
御堂の感覚を裏打ちする報告が、青柳の声で届く。
『A級ペルセウス、距離25メートルまで後退しました。脚部および腰部のスラスターは稼動したままです』
A級ペルセウスの足下からは、赤い砂塵が吹き上げられるままだ。その背にもオレンジ色の光輪が見えるから、バックパックの主推進装置も稼動させているのがわかる。
「ふーん……こちらが動かないから、ヒット・アンド・アウェイに切り替えたわけね」
御堂の口角が上がった。敵機が思惑通りの行動をしてくれたことに、思わず笑みがこぼれてしまう。
「いいね、いいね。動いてくれた方が、あたしには戦いやすいわ」




