第19話 実家に仕送り?
「妾ですね、実家に仕送りしてるんですよぉ」
「あ? ……うん、仕送りね」
不意に、青柳がプライベートな話を持ち出してきたことに御堂は少し困惑する。
「下に弟と妹がいて、双子なんですよ。同い年だから、二人が大学受験なんです」
「うん、受験……大変だよね」
取り敢えず、御堂は当たり障りなく話を合わせる。
「弟と妹には普通に大学行って欲しいんです。なので受験対策の講習会とか受けさせたいし、大学行くには入学金とか用意しないとなりません。お恥ずかしい話なんですけど……うち、経済的には結構キツいんです」
「そうなんだ」
相槌を打つ御堂だが、まだ青柳の言わんとする意図がわからない。
「命令違反の巻き添えでペナルティの減俸処分とか、絶対に嫌です!」
……ドン!
「……あ!」
両手を拳に握ってテーブルを叩く青柳の眉間には、深い皺が生じている。単なる喩え話ではなく、青柳は本気でそれを心配しているのだ。
「命令違反の上、間抜け行為で戦死なんてことになったら……二階級特進どころか懲戒処分で退職金とか一切出ないんですよ!」
「いや、流石に戦死になったら少しくらい情状酌量も……」
「近衛軍で、あるわけ無いじゃないですか‼」
士官候補生時代、御堂は何度も命令違反を犯している。責任能力の無い士官候補生と言うことで、御堂自身は特に処分を受けていなかった。しかし、その上司や周囲の者はかなり厳しい処分を受けたと言う。
それ故に「疫病神」が、御堂の仇名になったのである。
「妾は、まだ……死にたくないんです」
青柳は、最後に小さな声で呟いた。それは、御堂の心を鋭く抉る。
「……ごめん」
御堂の脳裏に、首のない女の姿が浮かび上がる。
……士官候補生時代、嵯峨州での防衛戦に参戦した。
撤退命令を無視して敵機の懐に飛び込んだ挙げ句、御堂の乗機は「バッテリー切れ」で戦闘不能に陥ったのだ。
戦闘不能となりながら御堂を逃がすために、犠牲になった女性上官がいる。戦闘終了後、回収された彼女の遺体には首から上が失われていた。
(ネロさん……ごめんなさい)
今の御堂の命は、彼女の犠牲によって繋がれている。それを「忘れてはならない」と思いつつも、いつの間にか忘れていたのだ。
(ベルーナさんにも言われたことだったのに)
過去にそんな判断ミスを犯して、他者を帰らぬ人にしている。今度、判断を間違えたら巻き添えにするのは青柳である。
「ごめん。先に休むね」
御堂は、青柳を共用リビングに残したまま自分に割り当てられた個室に入る。そのまま灯りを消して、ベッドに倒れ込んだ。




